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映画・演劇のレビュー

劇団_光の領地『うどん屋』

2008-01-12 20:53:41 | 演劇
 とてもおもしろい発想の芝居だ、とは思う。しかし、作品世界が狭く、そこから全く広がっていかない。

 狭いというのは、舞台がうどん屋から一歩も出ないとか、役者が3人しかいないとか、そういうことでは当然ない。それどころか、この店から芝居が出ないことで、この世界のあり方を明確に描き得るくらいだ。この場所への拘りがこの芝居の重大なテーマですらある。この狭い世界がこの芝居の豊穣な可能性を示唆する。然るに、芝居は狭い範囲のドラマに終始する。

 米軍がここに基地を作るから、立ち退きを促される。ちっぽけなうどん屋の頑固な店主は、てこでもここから動こうとしない。役所の女はなんとかここを明日までに明け渡すように必死になって彼を丸め込もうとする。この両者のやり取りだけで、芝居は展開するのか、と期待した。

 しかし、話は思いもかけない方向に展開していく。頑固に見えた店主だが、彼が作るうどんがあきれるくらいに不味いということが、分かる。なんだか、彼の拘りが滑稽に見えてくる。もちろん、この店のうどんの味と、彼がこの場所に拘る理由には関係はない。しかし、彼の頑固さが、うまさを根底にしないという設定は意外で面白い。これは芝居としてのお約束事となる基本設定を簡単に売り払う行為である。それを平気でする。そんな大胆さがどんな方向にむかうのか、ドキドキしながら見た。

 このあとも、続々と新しい趣向で話は、広がっていくのだが、それが設定の怖さを増幅するのではなく、皮肉にも世界をどんどん狭くしていくことになる。米軍が北朝鮮から日本を助けるために兵を抑留し、臨戦態勢を取る。北朝鮮の本土来襲はないにもかかわらず、彼らはこの国から出て行かない。占領され完全に支配下に置かれる。その結果日本はなくなる、なんていうとんでもないお話のはずなのに、それがなんら意外性もなく描かれる。なんだか荒唐無稽で説得力がない。ラストの「たったひとりでもアメリカと戦うべきだった」なんていう言葉も虚しい。平成新憲法という設定も生かされない。

 この基本設定にリアリティーがないから、話が進展していくうちに、だんだん嘘っぽさが増すばかりだ。大きな嘘はついてもいいが、その周辺にはもっとリアルが欲しい。そこからさらにはもっと凄い嘘が作品世界を動かすことも可能になる。例えば、≪うどんが日本を救う≫なんていう荒唐無稽がリアリティーを持つ、そんなドラマにも出来たはずだ。

 とても静かな芝居で、それはいいのだが、その静けさを支え、緊張感を持続させるだけの演出力が欲しい。これではただ息苦しいだけである。3人の役者たちの芝居はとても硬く、ドラマに奥行きを与えることが出来ない。つぶやくような声も、音響と照明を最小限まで抑えたことも、安易な方向に流されない作者の強い意志を感じさせ、いいと思うが、それだけでは傑作は生まれない。そのスタイルが芝居にどんな効果をあげるのか、その戦略が見えない。

 昨年の「僕の選んだベスト作品」である2作品、太陽族『越境する蝸牛』、小原延之+アイホール『NINE』の延長線上にある作品だし、期待の新鋭くるみざわしん氏が、どれだけ凄いものを提示してくれるか、期待したが、やはり芝居は難しい。もちろんこれは力作だと思う。それだけに余計に残念なのだ。

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