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映画・演劇のレビュー

『自由が丘で』

2015-10-23 20:19:06 | 映画

67分というとても短い作品なのだが、近年のホン・サンス作品ではいちばんおもしろい作品になった。いつも同じ話を飽きもせず作る彼なのだが、さすがに観客である僕は飽きてきた。もうホン・サンスはいいかぁ、と思っていたのだが、今回加瀬亮を主役に迎えた作品ということで、見ることにした。見てよかった。彼の新境地を示す佳作だ。

何よりもセリフが少ないのがいい。加瀬亮は韓国語は話せないという設定なので、彼は英語でコミュニケーションを取る。周囲の韓国人も英語を話す。日本人と韓国人が英語を通してコミュニケーションを図るというのがおもしろい。その結果、いつもの饒舌なタッチに抑制がかかる。ソウルを舞台にした韓国映画なのに、ほとんどが英語、というのはおかしい。もちろん、韓国人通しの会話はちゃんと母国語でなされているけど、加瀬の主観による映画(彼からの手紙を受け取った彼女の主観でもあるが)なので、ほとんどそういうシーンはない。しかも、加瀬は一切日本語を話さない。(日本人は彼だけ、ということもあるが、独り言も言わない)

酒を飲んで、だらだらおしゃべりするだけ、という従来のスタイルは踏襲されている。恋愛もの、というのもいつもと同じだ。舞台となる空間も狭い。「自由が丘8丁目」という日本語名前のカフェ。加瀬が泊るゲストハウス。不在の彼女のアパートの前。いつもの映画のように飲み屋。それくらいか。

加瀬は自分が出会うひとりひとりになぜソウルにいるのかを、面倒がらずにちゃんと話す。別れた恋人がここにいて、彼女の帰りを待っていること。仕事はやめて韓国に来たこと。もう一度彼女に会って本当の理由を聞かせて欲しいこと。ここから、自分が新しい一歩を踏み出すために、今、ここで立ち止まる。そんなちょっとした時間のスケッチが描かれていく。ラストシーンで彼女と再会し、彼女を連れて日本に帰っていくのだが、それが現実なのか、もしかしたら夢なのか、よくわからないくらいに淡い。


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