このタイトルで劇場公開しても、誰も見には来ないだろう。僕が見たのは公開から2週目の水曜日だったが、すでにシネコンの一番小さな劇場で1日2回上映になっていた。レディスデーなので、2、30人は入っていたけど。
映画自体はとても面白い。地味な映画だが、今、これを見る意味を十分感じさせられる作品で満足した。1981年のニューヨークが舞台となる。「アメリカンドリーム」なんて、もう誰も信じない夢の話。そんな時代のお話だ。しかし、そんな世界で、主人公の彼だけは正しい生き方を貫きアメリカンドリームを実現する。
断固としてクリーンに生きる。だが、周囲はそんな成功者である彼の足を引っ張ろうとする。当然のことだろう。やっかみ、なんとかして、失敗させようとする。汚い手を使い、寄ってたかって彼の夢を打ち砕く。そのため、傷つき、壊れてしまう。だが、彼は負けない。なんて、書くとなんだ、と思うだろう。だが、決してそんな単純な映画ではない。彼は正しいことをして、最後までそれを貫き、勝つ。ラストの、でもほろ苦い終わり方がいい。そこには、決してきれいごとだけではいかない現実がある。
81年のニューヨークはとても物騒な街だった。あのころ見たいくつもの映画で描かれたNY(自分が過ごしたわけではないから、ね)がよみがえってくる。今、あの時代の空気を再現するのはとても大変だったことだろう。この映画は実によくやっている。
あの頃見たアメリカの夢ってなんだったのだろうか、あれから30年以上の歳月が過ぎた今、この映画はあの時代をもう一度見つめなおそうとする。とても危険で正義なんかなかった時代。それでも誠実に生きること。そのことによって負うことになるリスク。しかし、それは一見平和そうに見える今も変わらない。日本語版タイトルとオリジナルタイトルの立ち位置は正反対なのだが、この映画が描くものも、そんな表と裏であり、その2つがセットになると、この映画の意図がよくわかる。