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映画・演劇のレビュー

演劇集団☆邂逅『照りもせず』

2012-06-13 20:55:46 | 演劇
 『源氏物語』を原作にしたミュージカル・スタイルの作品。邂逅らしい題材の選び方だ。しかも、膨大な原作の中から、朧月夜と源氏を主人公にするという発想もすばらしい。晩年の源氏を描きながら、それを相変わらずの軽くてチャラい男として見せるというのもおもしろい。林真由子さんが演じる、いくつになっても軽薄で、女から女へと渡り歩く永遠のプレイボーイ、光源氏という設定は、原作のファンからは顰蹙かもしれないが、オリジナルの精神をちゃんと捉えてある。彼の軽さを通して、彼の哀しみまでもが、そこから透けて見えたなら、この作品は凄いものになったかもしれないが、さすがにそこまではいかない。うそくさい彼の存在が厭味にはならない程度に伝わってくるというレベルにとどまる。サブタイトルには「ろくでもない男の見捨て方」なんて大胆なものいいをされている。ということは、本来は朧月夜目線での話のはずだ。でも、あくまでの主人公は源氏でしかない。

 みんなを同じように愛することで、結局は誰をも愛することが出来ない男、として彼が浮かび上がってくるのだが、彼の哀しみが、朧月夜の突然の出家を通して、どこに行き着くこととなるのか。そこが、ちゃんと見えてくるといいのだが、惜しいが、そこでの後一押しが出来てない。それでも、春の宴を催す彼の姿の哀しみを捉えるラストは悪くはないのだ。帰着点となる落としどころも問題はない。それだけに華やかな舞と踊りのなかで、彼の孤独がどう極まるのか。ほんとうに後一押しだったのだ。

 本当なら帰るべきところは、幼い日に喪った母のもとなのだが、この作品はそんな簡単なところに落としどころを設けない。だが、現実を引き受けるという、あのラストに彼の覚悟が描けたかと言われると、少し弱いとしか言いようがない。

 回想シーンとして挟み込まれる六条御息所のエピソードが、ちゃんと作品全体を引き締めてくれたなら、よかった。夕顔を呪い殺し、葵上も殺す彼女の激しい想いを、小林桃子さんがホラーのように演じて見せてくれる。このシーンはこの芝居のハイライトなのだが、このエピソードが単なる回想ではなく、全体の中にもっときちんと嵌るべきだった。とても怖い女という描き方はインパクトがあるが、彼女の話を聞いた朧月夜が自分と六条を重ね合わせてしまい、そうはならないように身を引くという話の展開を、芝居自体が、ちゃんと源氏に伝えれたなら、源氏の中の変化を描くことが可能だったのではないか。六条が伊勢に行ったことで、源氏の中で何が変わったのか、その事実から、朧月夜が出家を覚悟したことと重ね合わせることで、答えが見えてくる。源氏が引き受けたのは何なのか。芝居はそこまでを描くべきだった。

 衣装も、着物ではなく、和風を取り込んで、大胆なデザインを施した無国籍ふうで、楽しい。ストーリーも原作に縛られることなく、しかし、きちんとリスペクトしつつも自分流にアレンジした作劇で好ましい。


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