とても面白い短編集を読んだ。『運命の人はどこですか?』という短編連作である。6人の女流作家の競作だ。いずれも面白く、読んでいて楽しい。
運命の人なんかいないかもしれないけど、いたらいいな、と思う。そして、たぶん、いると思う。それがいつも通う風呂屋の番台のいるおじいさんであってもいい。理想の恋人と出会い結ばれるということだけが、運命なのではない。もっと違うものをこの短編集は提示する。
そして、その直後、まるで続編のような作品を続けて読んだ。それが碧野圭の『駒子さんは出世なんかしたくなかった』である。運命の人ではなく、運命の出来事だけど、まぁ、細かいことはいい。テイストが似ている気がしたのだ。
出世なんて望まない。ただ、気持ちよく仕事が出来たならいい。でも、女性であるというだけで、不愉快なことがたくさんあるのが会社で、それでも、自分は精一杯やってきた。フェアで、正しく生きてきたつもりだ。駒子さんは次長に大抜擢される。さらには、次期総務部長になる。それは彼女の仕事が認められたからだったのだが、周囲のやっかみも大きい。女であるということが、それだけで、周囲の目を引く。それでも自分は自分のペースでやるしかない。単純なサクセスストーリーには収まらない。でも、ちょっとしたファンタジーで、こんなことがあったなら」いいな、と思わされる。
この小説のメッセージは単純だ。
今ある人生を楽しめ。自分にしか、体験出来ないことを大事にせよ。それがどんなに過酷なことで、あったとしても。面白いと思えることが大事。みんなそれぞれ現実の中で必死に生きている。自分1人が惨めで悲しいわけではない。ものごとをマイナスに受け止めたなら、どんどんへこんでいくばかりだ。たまたまの出会いをラッキーだと思い、自分オリジナルの人生をエンジョイする。
そういう話なのだ。
駒子さんは出世してしまうことになる。もっと楽で楽しい生き方が出来たならよかったとも思う。でも、こんなチャンスは彼女にしか訪れない。彼女が今までしっかり生きてきたから、巡ってきたのだ。だから、彼女は受け止めて立つべきなのだ。優しい夫と息子に支えられて、でも、そこに甘えていた自分を戒め、彼らが今はへこんでいるのなら、今度は彼女が彼らを支えるべきなのだ。会社はますます大変なことになるけど、でも、大丈夫。家庭と両立させて人生をエンジョイする。彼女の姿を見ていると、僕らも、もっとがんばらなくては、と思わされるこれはそんな元気になれる小説だ。