光州事件を取り上げ、わかりやすく、見やすい映画にして、でも事件をしっかり伝えようとする。社会派映画で、重くなりそうなテーマなのに、ソン・ガンホのキャラクターで、決して重いだけの映画にはせず、エンタメ要素すら折り込んで、ドキドキさせながら、ラストまで2時間17分走り抜ける。
伝えたいことをしっかりと伝える。事実は歪めず、感傷的にすることもなく、多少の誇張はあるけど、ドラマとしてのメリハリをつけながら、ラストまで飽きさせない。美談にするわけでもなく、第3者の視点から見たままを描こうとした。だが、映画はドキュメンタリータッチではなく、物語の枠組みに収める。
何がリアルで何が嘘くさいか、その線引きは難しい。ラスト近くのカーチェイスはいくらなんでも、嘘だろう、と思う。しかも、丸腰のタクシー運転手たちが、銃を乱射するジープに乗った公安を出し抜くなんて、ありえない。でも、そういうエンタメ的な仕掛けも取り込みながらも、事実をちゃんと伝えようとしているから、この映画は信じられる。
この映画の若い監督(チャン・フン)は自分が生まれる前に起きた事件を再現して、自分より若い世代に伝えようとする。同時にあの事件の当事者やあの時代を生きた年長世代にもしっかりとアピールする映画に仕上げようとした。重厚なドキュメントではなく、娯楽映画のなかで、真実を伝えるための手法を見いだそうとしたから、この映画は昨年韓国であれだけの大ヒットとなったのだろう。1980年、光州で起きたとんでもない出来事を、映画は、ソウルからやってきたドイツ人ジャーナリストと彼を光州まで運んだタクシー運転手の2人の視点から見つめる1泊2日の旅、という形で切り取る。感動的な映画になった。