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映画・演劇のレビュー

『ウォーターホース』

2008-02-06 21:40:23 | 映画
 昨年公開された秀作『パンズ・ラビリンス』を思わせる映画だ。これはまさにあの作品の少年版とでもいうべき映画だ。戦争を背景にして、父親の不在を隠し味にしているところまでよく似ている。

 スコットランドの風景が主人公の少年の孤独な心情を見事に代弁している。寡黙な映画なのもいい。アメリカ映画はこの手のファンタジーを作らせると安っぽいものにしか作れないのは、ストーリーに寄りかかりすぎることと、安易なSFXに頼りきるという姿勢ゆえだ。その点ヨーロッパの国はそんなことをしない。安い特撮映画ではなく、少年の想いを基点にドラマとして、映画が存在するというのがいい。そんな当たり前のことすら今のハリウッド映画には出来ない。

 主人公の少年が、異常なまでに水に対して恐怖感を抱く、という設定もいい。戦火の中、少年は父を失い、母と姉と3人で大きな屋敷で暮らす。彼は偶然水辺で何なのかよくわからない卵を見つける。家に持ち帰り孵化させる。見たこともない生き物が生まれる。その生物にクルーソー(ロビンソン・クルーソーから取った)と名付ける。クルーソーは異常なまでもの早さでどんどん成長する。戦場に行ったまま帰らない父を待ち続ける彼は、周囲に対して心を閉ざしていた。だが、クルーソーとの交流を通して徐々に心を開いていく。新しく彼の家にやって来た下働きの男に、父の姿を重ね、彼の話す伝説の世界に魅せられて、さらにはその伝説の中に出てくる恐竜がクルーソーであるという事実から、二人の心はさらに重なることになる。

 メジャー映画なので『パンズ・ラビリンス』のような悲惨な話には当然ならないが、単純なハリウッド映画とは一線を画す味わいがある。少年の憂いを秘めた表情が印象的だ。彼の怯える様が僕たちを彼の中にある恐怖の世界に引き込んでくれる。少年の住む屋敷に軍隊が駐屯して、たくさんの軍人が家の中をうろうろする。そんな中彼は秘密でクルーソーを育てる。母は楽しそうにしているが彼は軍人たちに馴染めない。クルーソーが彼の支えになる。

 映画は後半ちょっと昔懐かしい動物映画の『フリー・ウイリー』みたくなり、巨大になった恐竜がなんとか逃げ切れるか否かなんていう単純なサスペンスものになってしまうのにはがっかりさせられるが、そこまではしっかりした落ち着いた映画で、なかなか面白い。

 ネス湖の伝説の恐竜ネッシーを題材にしたこのファンタジー映画は、単純なファミリーピクチャーではなく、少年の日の不安と孤独をしっかり描いた佳作に仕上がっている。もちろん凄い映画ではない。子ども向けの映画と一蹴する人もいるだろうが、思ったよりはずっと良かった。

 

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