習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

大阪女優の会『朗読劇 夕凪の街 桜の国』

2008-08-11 07:30:46 | 演劇
 遊劇体の新作『山吹』からまだ何ヶ月も経っていないのに、こんなにも早くキタモトマサヤさんの新作が見れるなんて幸せだ。しかも、何度もキタモトさんからリーディングのあり方についてはお話を聴いていたので、この公演で、彼がどんな試みをされるのかも、楽しみだった。客席でドキドキして開演を待っていた。私事だが、この日、偶然にも太陽族の新作とこの作品を梯子して見た。しかも63年前に長崎に原爆が落ちた日である。なんだか運命的なものを感じたりして。

 終演後キタモトさんとのお話の中で、昨年公開された同じ原作による映画『夕凪の街 桜の国』の話になり、あの映画からは良くない評判ばかり聞いている、だなんて話されていたのを聞いてなんだか、悲しくなった。佐々部清監督の傑作であるあの映画は確かの甘い映画かもしれない。だが、あの優しさは戦後生まれの佐々部監督だから描けたことで、それはきっと原作者であるこうの史代さんの描こうとしたものと同じ方向を向いたものであろう。僕は残念ながら原作コミックを読んでないから詳細は語れないが、戦争を体験していない世代が、自分の言葉で、忘れてはならないものを語り始めた、そんな画期的な一歩ではないか、と思う。それは、この芝居の冒頭でも、こうのさんの制作動機として語られる。

 さて、前置きが長くなったが、今回のキタモト版『夕凪の街 桜の国』に触れよう。100分間があっという間だった。リーディングは集中力が必要で、なかなか頭の中で作品を組み立てられないのだ。(想像力が貧困なだけだが)この18人もの語り手が舞台を闊歩する作品は、本来なら困難を窮めるものになるはずだった。しかも、女優が男の役もこなすし、原作がコミックなので、台本自体もただ、そのまま読むだけでは内容が伝わりきらないおそれがある。それをキタモトさんは敢えて混乱が増幅される怖れも承知で複数のナレーターを起用して、様々な声が芝居を作るような構成にした。ト書きにあたる部分を増やし、その結果作品は客観性を重視するものとなる。本来ならダイアローグ中心で構成していくほうが、ストレートに伝わりやすいはずなのに、それをやらない。

 その結果、作品の主人公たちと距離感が出来る。本来ならそれは損なことだろう。観客がドラマにのめりこむことをやんわりと拒絶する。彼らとの距離感を常に意識してこの物語を見つめさせようとするのだ。

 これは時間についてのお話である。昭和20年8月6日からどんどん時間は過ぎていき、広島からも遠く離れて、あの日の記憶は人々の中から薄れていく。忘れてはならない歴史の1ページであろうとも、時間は忘却の彼方へと連れ去る。それはしかたのないことでもある。

 しかし、そんな薄れゆく記憶を踏みとどめるために、僕らはきちんとその出来事を認識すべきだと思う。あの日を体験したわけでもない僕らをあの日の只中に突き落として追体験させようなんていうのではない。あの日を知らない、ということをベースにして、そんな僕たちがいかに彼らに近付くかが大事なのだ。

 昭和20年のあの日が根底にある。それから13年後が語られる。後半は現代となる。この部分が前半の生々しさと比較してあまりにドラマとして弱いことがこの作品(原作)のポイントなのだろうが、ここをどう描くかが実はこの作品の一番大事な部分となる。敢えて軽いタッチで語ること、それが大切なのだ。そのことを原作者も、佐々部清監督も、そしてキタモトさんもよくわかっておられる。

 朗読劇というスタイルの持つ客観性がこの作品の眼目だ。これを安易に芝居として構成して、昔話にしてはならない。今を生きる18人の様々な世代の女優たちが、この作品に参加し、誰が主役で、誰が脇役だ、なんて関係なく(だいたいそんな垣根はここにはない)それぞれがここにすっくと立ち、この朗読劇を対等に作る。彼女たちは自分を演じてここにいる。自分としてこの芝居に参加しているのだ。それが大事だ。気持ちのいい作品だった。

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2 コメント

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すみません (hirose)
2008-08-11 21:31:59
私的な会話を引用し、すみませんでした。なんとなくそれが気になり、そこから書き起こしてしまいました。映画版は33年という設定に変更されています。なぜなんだろう。わかりません。キタモトさんがあの映画にがっかりされたというような文章にはしなかったつもりなのに、誤解を与える書き方で、それも反省です。キタモトさんが、どう受け止められるのか、楽しみです。
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Unknown (キタモト)
2008-08-11 13:07:56
ご来場ありがとうございました。本ブログ読ませていただきました。とても気になることがあります。13年後が語られる、という広瀬さんの記述はミスでしょうか?「夕凪の街」は、あの日から10年後の、昭和30年のハナシですが。ご確認をおねがいします。
 私はまだ映画を観ていません。映画のノヴェライズ本も読んでいません。だから映画が、私にとって好きだといえるものになるのか、がっかりさせられてしまうものなのか、どんな感想を抱かされるものなのか、全く見当がつきません。私が、この作品を朗読劇にするにあたって、複数の、それもかなりおおぜいの方々から、原作は素晴らしい、だから映画を観に行ったが映画はね、という感想、というか意見を聞かされました。ということを、個人的に広瀬さんとの会話で口にしたわけで、映画にがっかりさせられたというのは、私の感想ではないのです。そこのところを、習慣HIROSEの読者のみなさんに誤解を与えると悲しいので、投稿させていただきました。
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