ここ数本、つまらない映画ばかり見ている。あまりに残念過ぎて、もう映画館で映画を見るのはしばらくお休みしようかと思ったほどだ。しかも、ネット配信の新作映画には当たりが多い。劇場よりTVで見ていたほうがいい、となりそうだ。でも、それはもちろん間違いである。自分がわざとそういう可能性のある映画ばかりにチャレンジしただけで、ふつうに選べばいい映画はたくさん公開されているからだ。そこで、今回はあえて安全圏で勝負してみた。(というか、映画はギャンブルではありません。)
評判の『リスペクト』を見た。2時間半の長尺なのに、こんなに淡々とした映画なのに、とても素敵な作品で大満足だ。いい映画を見た。大好きだった三池崇史や金子修介の新作よりこちらを優先させるほうが安全だということは見る前からわかっていた。若手で挑発的な作品を作る入江悠の新作よりもこちらをまず見たほうがいい。そんなことわかりすぎるけど、ついついギャンブルしてしまう。評判の悪いふくだももこの新作も見てしまった。それらの映画については後日時間があれば書こうと思う。でも、今はこの映画である。
これはジェニファー・ハドソンが、ソウルの女王アレサ・フランクリンの半生を演じた伝記ドラマだ。よくあるパターンの映画なのだけど、丁寧に作ってあり、胸に沁みる。お話は10歳の少女が何を思い、何を感じていたのか、からスタートする。すぐにあの衝撃的なレイプシーン(暗示だけで描かれる)になり、お話は飛び、ふたりの子供を抱えた10代の彼女のドラマになる。この省略には驚く。父親との確執、夫の暴力。歌手としての彼女のドラマの背景は一見さらりと描かれるけど、実は重い。彼女がなぜ男たちと関係を持つか、とか、子供たちとの交流はどうだったのか、とか。描こうと思うといくらでも描くべきことはある。だけど、そこをさりげなく流す。では、2時間半も何を描いたか、というと、当然のようにミュージシャンとしての彼女の軌跡を追うのだ。生涯を均等に描くクロニクルではなく60年代から70年代にかけてが中心となる。とても丁寧なのに、説明的ではないのが素晴らしい。
新人監督のリーズル・トミーはこれまで数々のTVドラマを撮ってきた人らしい。今回が初めての映画なのだろう。だけど、安定した演出でベテランの風格がある。主人公のジェニファー・ハドソンも素晴らしい。この手の音楽映画には傑作が多いけど、これもまたその1本になった。