広瀬、広瀬と100回くらい100分の芝居の中で呼ばれ続ける。これはなかなかの苦痛だ。そんなの生まれて初めてのことで、最初のほうは、自分のことではないのに、なぜか、何度となくドキドキしてしまった。(数えてないからわからないけど、実際は50回くらいなのかもしれない。でも、体感回数としては100回なのだ!)
主人公の男は、昔の友人であり、ライバルだった広瀬に対してコンプレックスを持ち続けて今に至る。もう袂を分かってから10年くらいになるのに、である。それくらい根深い。今では有名な芸能人となった広瀬が市の主催するマラソン大会のゲストとして、帰郷する。
2人は若いころ一緒に劇団を立ち上げて活動していた。だが、広瀬はプロの役者になるため、劇団を抜けて東京に出た。主人公(堀内、ね)は、この町に残り、今でも細々と劇団を続けている。
堀内は今年もマラソン大会に出場する。例年彼はこの大会に出場して優勝している。だから、今年も負けられない。そして、今年は特別だ。要するに広瀬にだけは、負けたくない。
とても、単純なお話だ。ひねりも何にもない。そのまま。ド・ストライク。ステージタイガーの得意とするところだろう。今年彼らはこの「space×drama2016」に招聘された。そこで、何を見せるのか、いろいろ考えたはずだ。その答えがここにはある。彼らは若い劇団たちの前で先輩風を吹かそうなんて考えない。自分たちに何が出来るのか。しかも、ここで、何が出来るのか。その結果の彼らの選択がこれだ。これしかないと確信した。
初心に戻れ。
とてもいいな、と思う。偉そうにしない。自分たちの全力を彼らの前で見せることで、自分たちもまたギリギリのところで頑張っているのだ、という一番大切なメッセージを示すのだ。それでこそ、ステージタイガーだと思う。今回、ここに彼らが呼ばれた理由もそこにある。芝居自体の内容も含めてこれは、この演劇祭の目指すところに合致する。久しぶりに彼らの舞台を見て、とても気持ちよかった。
それにしても、こんなにも、何度となく舞台から自分の名前を連呼されて、(名字だけど)なんか、恥ずかしかった。困った。一人顔を赤らめていた。(まぁ、自意識過剰ですなぁ)しかも、肝心の広瀬は芝居にはあまり登場しない。だから、余計に自分が呼ばれているような錯覚になる、という図式。