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夏の短編集に続き今回も短編集というスタイルをとる。前回は15分の3篇だったが、今回は20分の4篇。前回をウォーミングアップにして今回の作品に挑んだという感じかな、とも思う。昨年第28回OMS戯曲賞大賞を受賞し山本彩の台本を中村ケンシの演出で贈る。当然いつもの中村さんの台本とはまるで違う。いつも以上に優しいのは、台本の力ではなく、中村さんの姿勢だろう。自分の本には厳しく、人の本には優しく、とでもいうのか。いや、これが山本彩作品だからだろう。彼女が描きたかった世界をきちんと包み込むように作品化したらならこういうふうになった。
2人芝居で4話連作。ト書きがナレーションとして最初の導入で示される。作者の山本彩の声で綴られる。これからみなさんにそっと小さな話を聞かせるよ、というふうに。ダムに沈んだ村。そこで暮らしていた人たちのその後。ここで自殺した旅の女性とその介助をしてしまった地元の女性。死んだ女の身内である男は毎年ここにやってきて花を手向ける。彼女を死なせてしまった女は毎年それを見守る。1話目はそんなふたりの話。昼顔の花を中心にして4つの話は展開していく。2話目はこの村に残った兄とここを出た妹の話。村祭りの日に帰ってきた妹。ダムに沈んだ村の代替で作られた新しい村。村に活性化のための祭りでひまわりを使う。ヒマワリがこの村に新しいシンボルだ、と。だが妹はそれを拒絶する。そんな嘘くさい祭りはいらない、と。3話は昔の話。やがて沈みゆく村を縁側で見守るしかない男女の姿。今から過去へと、そして未来へ。雨が降らない午後から始まり、雨が嵐のように降る夜まで。やがて、雨は止む。4話は最初のエピソードの都会の男(石塚博章演じる彼だけが2つの話に登場する)がこの村に移り住むまで。
この村で何があったか、その小さなお話の断片をつなぎ合わせることで80分の小さな長編作品になる。優しさにつつまれたまま、芝居は終わる。これはほんのちょっとした再生へのドラマ。傷ついた心が癒される。確かに自分たちは傷ついたのだと、思う。だから、ちゃんと泣いて前を向こう、と思う。そんなお話だ。