タイトルにあるようにいずれも舞台を題材にした8つの短編集。演じること、見ること、その空間自体。さまざまなパターンが描かれる。お話自体もそうだし、描かれる舞台自体もそうだ。そこに提示される舞台が作品の中央にあるときもあれば、かたすみに置かれることもある。いずれにしても、そこには確かに舞台という虚構の空間がある。帝国劇場のような大きな舞台の場合もあれば、廃墟となった田舎の舞台もある。大きなお屋敷に作られたプライベート劇場や、市民会館の舞台、とさまざま。『ラ・シルフィード』というバレエ、『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』や『ガラスの動物園』というお芝居から、シンフォニーホールでの演奏会まで。背景となる演目だけではない。見ることの叶わない芝居や、敢えて見ないで出待ちすることや。でもそこには確かに舞台がある。
人は舞台を見ることで現実から遠い夢のような世界をその目の前に見る。彼らが見たものは現実であり、作られたお話でもある。現実と虚構とが行き交う。描かれる舞台ではなく、この小説の主人公たちが演じる現実の世界での不思議な物語のほうが演劇的だ。静かに見つめる芝居や音楽、自分が体験する人生の物語。どちらが夢でどちらが現実なのか、わからない。彼らの人生そのものが舞台で演じられたお話のように思える。
いずれも30ページほどの作品だ。小さなお話である。ファンレターを送る。昔女優だったという伯母の話を聞く。歯の中にできた生き物、劇場に住む女、舞台で暮らすコンパニオン。大きな犬や渡り鳥の本。つがいのやもり。不思議なできごと、出会い、経験を通して、何かを見る。舞台で人生で。夜中に1篇ずつ読みながら、眠る。この小説が自分自身の夢の世界に続く。