Netflixで見る久々の傑作映画だ。というか、最近のNetflixはつまらないので、アマゾンばかりを見ていた。いや、もう配信自体がつまらないので飽きてきていたのだが、それでもちゃんと探せば凄い映画が隠れているものだ。これは2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品らしい。
冒頭の11分に及ぶ長回しが凄まじい。『アテナ』とタイトルが出たときそこで思わず映画を止めてしまった。そこまで何分あったのかを確認するためだ。ここでようやくカットが途切れるのだがなんと11分である。カメラの移動もすごいけど人間の動き、爆破シーンやカーチェイスもあり、そのてんこ盛りに圧倒される。どうすればあんな映像が撮れるのだろうか。信じられない。カメラが主人公たちをどこまでも追う。そしてそこでは何百人、何千人という人々が右往左往し、事件に関わっていく。映画はある暴動を描くのだが、凄いスケールとリアルさだ。この冒頭だけではなく全編何度となく長回しで引っ張る。緊張は途切れない。
13歳の少年が3人の警官に暴行されて殺される。その映像がSNSで拡散する。少年の兄(次男)は警官でその事件のプレス発表を任される。だがそこにもう一人の兄(三男)が仲間とともにやってきて暴動を起こす。怒り狂い、警察に殴り込みをかけるところから始まる。警察から路上へさらにはアジトとなるアテナ団地へ。さらには麻薬ディーラーの長男も絡んできて暴動はどこまでもエスカレートする。やがてフランス全土の内戦にまで広がる。もうこれは戦争だ。
有無を言わせぬ怒濤の展開にスクリーン(TVだけど)から一瞬も目が離せない。長回しがどこで途切れるかわからないから瞬きもできない。主人公たちをカメラが接写で追いかけるから、安心できない。彼らが何をするのか、ということだけではなく、スクリーンの中心には彼の姿が大きくあり、周囲に光景を見る余裕もない。目まぐるしい。凄まじい緊張感を強いられる。だから97分という短めの上映時間は生理的にも限界だろう。ぐったりする。
ただ、映画としては後半お話が単調になるし、ラストはあっけない。この大事件の顛末を締めくくるためにはもっと凄い展開が欲しい。さらにはエピローグのように最後の最後で事件の発端となった少年殺害のシーンが描かれるのだが、そこまでの衝撃の展開と較べるとあの結末も弱い。
SNSに踊らされ、現実を見極められないまま暴走する若者たち。それが連鎖して、おぞましいことになる。描こうとしたことは単純でそれを展開させるだけの脚本ではないのが残念だが、この圧倒的な映像の迫力は有無を言わさない。理屈ではなく現実をリアルな映像で突き付けてくるのは圧巻だ。