習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『魔女の宅急便』

2014-03-05 19:51:37 | 映画
『呪怨』の清水崇監督がこんなハートウォーミングを撮った。もうそれだけで驚きだが、別に彼はホラーしか撮れないわけではない。それよりこれまでそういうワンパターンを押し付けられていたことのほうが不幸なのだ。今回ようやく、彼の本領発揮の機会が訪れたのかもしれない。

最初から最後まで、ここまでするか、というくらいにかわいい映画だ。でも、そこに新井浩文のような凶悪なキャラの役者を配して、バランスを取る。ただの優しいだけの映画にはしない。それはあからさまな悪意ではなく、日常に潜むものとして、随所に織り込まれる。キキのことを魔女だと宣伝する女、それによって彼女の行いを全否定する村人たち。善意と悪意とは紙一重である。この完璧に作られたメルヘンの世界であってもそこには綻びがある。しかも、それだけで、ひとりの人間を(しかも魔女なのに)叩きのめしてしまうことになるのだ。

こんなにもキラキラで、ハートフルなお話の世界だからこそ、そういう怖さがちゃんと描かれるべきで、それでこそ『呪怨』の清水監督の面目躍如であろう。そこだけだ。この映画はそれ以外は全くかわいいものだ。ファンシーグッズのような映画である。美術スタッフの渾身の努力がこのすばらしいメルヘンの世界を作りあげた。実際のロケーションを重視してあるのもいい。CGで作られた世界ではなく、ちゃんと実際の風景を飾り付けることで出来る手作りの世界だ。ここには人の息遣いがちゃんと感じられるのがいい。

1年間の魔女になる修業をするため、この島にやってきた。不安と期待に胸ふくらます普通の女の子がキキだ。小芝風花はそんな等身大の魔女をとてもリアルに演じる。彼女はどこでもいる13歳として、そこにいる。宮崎アニメのキキはもっと大人っぽかったけど、小芝のキキは、ドジっこだけど、うそくさくない。この映画の魅力は彼女に尽きる。お話自体はたわいもないし、そこに何かを期待するわけではない。ただ、初めての場所で、たったひとりで少女が(黒猫のジジはいるけど)生活していく日々を描くことこそがこの映画のすべてだ。ラストのスペクタクル(というほどのものでもないけど)も、それ自身を見せたいわけではなく、この仕事を通して彼女が成長していく姿を描くことが目的で、ねらいがちゃんとしているから、安心して見ていられる。

この温かい世界に包まれて、やがてキキが魔女としてみんなから好かれて、この村にいなくてはならない存在になる。よそからきた他者でしかないはずの彼女が、この村に溶け込み、ここが大好きになる。みんなも彼女が好きになる。最初は物珍しいだけだったけど、最後にはこの村の仲間として認知される。

 空を飛ぶことしかできない魔女の卵がその魔術を武器にして自己の存在をちゃんとアピールできるのか。テーマはそれだけでいい。これはそんなどこにでもあるお話なのだ。この時期、新しいスタートを切る子供たちへのメッセージでもある。


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