習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『TAJOMARU』

2009-09-07 23:25:06 | 映画
 これは凄まじい。ここまで先の読めない映画になるとは思いもしなかった。行き当たりばったりで話を作ったわけではあるまいが、それにしても壮大なストーリーだ。どこまで話が横滑りするのか、想像もつかない。芥川龍之介の『藪の中』が原作とクレジットされるが、とんでもない話だ。芥川が知ったらきっと呆れるやら、驚くやら、まぁ、これは俺が書いた話ではないよ、と一蹴するだろうが。

 あの原作からここまで妄想の翼を広げれるって、ちょっと普通ではない。一応これはアクション時代劇である。だが、それが『藪の中』にインスパイアされたストーリーに基づくと言うところが、なんだか曲者だ。痛快アクションにはならない。ストーリーをひねりまくるのだ。

 戦国の世がやってくる直前の足利義政の時代。管領職を代々引き継ぐ一族の次男坊(小栗旬)が泥棒小僧(田中圭)を自分の権限で屋敷に入れたことから起こるドラマ。親切から彼を救うがそれがとんでもないことを引き起こすこととなる。桜丸と名付けた彼が一族を混乱に落とし込む。

 主人公はこの家の次男坊のほうで、のちに彼が盗賊となり多譲丸を名乗ることとなる。桜丸と彼との対決が映画のクライマックスだ。だが、そこまでの道のりは半端ではない。そして、これはただの勧善懲悪でもない。(だいたいこの災厄は自分が播いた種だし)

 一人の女を愛し、彼女さえいたなら他に何もいらない、なんて思う男が主人公だ。だが、それってなんだか嘘くさい。そんな彼が女の裏切りに合い、やけくそになる。しかし、それは男を愛していたからだった、なんていうよくあるパターンになるのだが、なんだかそれさえ信じられない気にさせられるのが、この映画の凄さだ。映画がブレまくるから、何がしたいのやらよくわからなくなるのだ。

 萩原健一が御所さま(義政)を演じ、怪演を見せる。松方弘樹が先代の多譲丸を演じ、笑わせてくれる。この2人のベテランがこの映画に風格を与える。だが、2人ともワンポイントリリーフでしかなく、話はどこまでも横滑りし、想像を絶する。こんなわけのわからない代物によくもこれだけのお金を注ぎ込んだものだ。これって自由に生きる、とか言うのとはなんか違う気がする。

 監督は中野裕之。『レッド・シャドゥ 赤影』以来久々の登板ではないか。摑みどころのない映画はお手の物だろうが、今回はいつもに増してすごい。

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