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映画・演劇のレビュー

梶尾真治『アイスマン。ゆれる』

2008-05-06 20:00:23 | その他
 こういう中間小説ってあまり読まないけど、たまに読むとこれはこれで楽しめる。ゆっくり時間があって暇な時に、ベッドの上でゴロゴロしながら読むのに、ぴったりな小説だった。

 これを読んだからって何の刺激を受けることもない。エンタテインメントとして楽しめて読み終わるとほんわかしたいい気分になれる。それだけだ。でも、それって悪くはない。それどころか何だか素敵なことだ。

 恋とか、結婚とかいうものを諦めてしまった30代の女性が主人公。高校の頃あこがれていた人と再会し、心ときめくが、病弱な母の介護を理由に彼への思いを押さえ込んでしまう。

 彼女は仲のいい友だちから「アイスマン」(女の子なのに『マン』でいいのか?)と呼ばれている。15年前、いたずら心から、祖母の遺品にあった文箱からみつけた道具と呪文のことばにより、人を相思相愛にしてしまう呪いを、学校で嫌われていた男女の先生にかけた過去があるからだ。「月下氷人」から「アイスマン」と名付けられた。この呪いは願いと引き換えにして、自分の体にかなりの衝撃を与えることになる。ということで、「その恋叶えます。わたしの痛みとひきかえに」なんてコピーが本の帯につけられることになる。この設定の下で、彼女のこの能力の秘密と、それによって周囲がいかにかき乱されていくのかがストーリーのポイントとなる。

 300ページ以上の長編だが、一気に読ませてしまう。ストーリーは単純で、荒唐無稽なエピソードは基本設定以外何もない。そんな中で、主人公の知乃が、自分のほんとうの気持ちと向き合い、彼女の優しさと弱さが、幸福なラストへと彼女を導いていくまでのラブストーリーとなっている。

 こういう小説の成否はいかに設定をいかし、心地よいストーリーの読者を乗せていくかのあるが、これはその点見事に成功している。

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