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映画・演劇のレビュー

『いつまた、君と ~何日君再来~』

2017-07-07 19:55:29 | 映画

地味でどこにでもあるようなできごと。それをお金と時間をかけて丁寧に映像化していく。こんな映画が商業映画として作られる。それって奇跡だ。ここには何の事件もない。これは戦時中から戦後の時代を生き、今に至るひとりの女性とその家族の話だ。老いた彼女が自分の人生の手記を書く。彼女が倒れた後、それを孫が引き継ぎ、清書していく。その行為を通して、彼は彼女の生きた時代をたどる。

 

それは波乱万丈の人生だ。だが、彼女たちのドラマは誰もが大なり小なり経験した戦後史のドラマであろう。何もなくなった焼け跡から、必死になって生きた。泣いたり笑ったりしながら、貧しいけど頑張った。そんな暮らしの記録を映画は淡々と見せていく。何をやっても上手くいかない夫を支え、3人の子どもたちを育てる。

 

昭和15年、南京に渡り、戦後引き上げてきて、松山、大阪、と転々とする。楽しいこともあったけど、つらいことの方がもっと、もっとあった。そんなある家族のスケッチを若い深川栄洋監督は丁寧に見せていく。自分たちの知らない時代をノスタルジアではなく、新鮮な驚きで見つめていく。

 

おばあちゃんのたどった時代。そこで生きた人たちの姿。少しずつ成長していく母とその兄たち。やがて、自分も生まれる。向井理が自身の祖母の手記を本にして、映画化した。この小さな物語を、小さなまま映画として提示する。そこから見えてくる人々の営みは心に沁みる。

 

昭和15年、カフェでのプロポーズのシーンから始まり、ラストで再びその場面が繰り返される。すべてはそこから始まった。この人を信じ、ついていこうと思った。その先には何があるのか、わからないけど、ドキドキしながら、その冒険を受け入れた。「僕はまた、南京に行きます。あなたにあの美しい風景をみせてあげたい」という彼の言葉にうなずいた。

 

3年前、(5年前かな)中国に行ったとき、上海から南京まで行ったらよかった、と今頃改めて思う。反日デモがあった翌年だったので、さすがに南京はちょっと、とうちの嫁さんが言ったので、仕方なくやめたけど、あんなにも近くまで行ったのになぁ、とこの映画を見て改めて思う。あの時、DVDで『南京!南京!』という映画を買ってきた。日本では公開されなかった映画だ。凄い映画だった。今回この映画を見て、一瞬、もう一度あの映画を見直したいな、と思った。(まぁ、時間もないし、たぶん、見ないと思う)

 

この映画が、たまたま野際陽子の遺作となった。人生の最後に彼女はこの映画に出演できてよかったと思う。尾野真千子と2人で主人公の女性を演じて、彼女のキャリアの最後を飾れた。主役ではないけど、これは今の彼女にしか出来ない役だと思うからだ。

 


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