習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

藤谷治『恋するたなだ君』

2012-05-18 21:02:45 | その他
 これまた異常な恋愛小説だ。『来たれ野球部』といい、これといい、ここまで普通じゃない小説を連続して読むことになるなんて、どういうことか。最近こんな本ばかり読んでいる。凄すぎる。

 藤谷治が恋愛小説なんかを書く、という、その時点で想像がついた話なのだが、それにしてもこれはないだろう。村上春樹のパロディーなのか、と思わせるような展開だが、藤谷治である。一筋縄ではいかない。でも、なんだか今回は軽やかだ。焼きが回ったわけではあるまいが、それにしてもこんなに明るくて楽しい青春小説を彼が書くって、どうよ、と思う。

 たなだ君の一途な恋心が暴走する。不思議な世界で、そのルールなんか無視して、ただ、ただ「なたさん」に向かって突き進む。彼女の気持ちなんか、おかまいなしだ。出会った瞬間に恋をして、すべてが見えなくなって邁進する。でも、彼がやってきたこの町はある独裁者が牛耳っていて、ありえないようなルールのもとで動いている。ちょっとしたワンダーランドなのだ。まるでリアルではないこの不条理な世界で、暴走していく若い2人の恋を冗談のように見守ることとなる。

 よくもまぁ、こんなむちゃくちゃな話を考えられたものだ。それがあざとくはなく、とてもシンプルなものに見えるのは、たなだくんの一途な純愛に嘘がないからだろう。48時間で、2人の恋はクライマックスを迎える。その時、非日常の世界での恋物語のはずが、普遍性のあるリアルな恋の顛末すら象徴していく。

 こんなとんでもない小説があったのか、と驚かされた。世の中にはいろんな小説があるし、これまでもたくさん読んできたはずの僕なのだが、これには驚かされたし、納得させられた。参りました。ごちゃごちゃ言いません。まず、読んでごらん。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 劇団きづがわ『歌わせたい男... | トップ | 『別離』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。