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こんなにも嫌な母親なのに、子供たちは彼女を慕う。映画を見ながらどんどん気分が滅入っていく。こんな嫌な映画を見てしまった自分を恨むしかない。見るのをやめようか、と思うくらいに嫌な話なのだ。でも、スクリーンに釘付けされる。一瞬も目が離せない。彼らの人生に付き合ううちに際限なく見ている僕たちも落ち込むことになる。ここには未来はない。ただ落ちていくだけ。しかも、それを何とかして食い止めようともしない。こんなことでいいわけないのに、どうもしない。
それどころか、どんどん酷くなる。こいつは最低の女だ。そんな女を長澤まさみが演じる。パチンコして、働かずに、ただただダラダラと生きている。際限なくだらしない。どこをどうとっても何一つ受け入れられるところはない女である。最悪である。幼い息子はそれでもそんな彼女を慕う。
地獄のような日々が続く。映画はそんな彼女と息子の姿を淡々と描く。内縁の夫となるホスト、阿部サダヲがまた嫌な男で、こんな男を連れ込んで、一緒に暮らす彼女の気が知れない。クズのような女と、ゴミのような男。彼らと暮らす幼い息子。映画は彼をけなげだ、というのではない。彼は何も言わない。ただ、母親と一緒にいる。それだけだ。
ここまで、感情移入を拒絶する映画は滅多にない。映画はドキュメンタリータッチで、彼女の内面を語ることもない。彼女とかかわる人々は彼女を助けようと手を差し伸べるのだが、肝心の彼女にその気はない。息子との関係は共依存だ。彼女が加害者で、彼が被害者だ、というわけではない。少年が可哀想、というふうに思うのではない。なんで?と思うのでもない。ただただ、スクリーンを見つめるばかりだ。目の前の出来事を追いかけるだけ。「何なのか、これは、」と思いながら。
大森立嗣監督もまた、クールにこの親子の姿を見つめるばかりだ。2時間6分の長尺なのだが、目が離せないし、啞然とするばかりだ。最後の、息子による祖父母殺しに至っては、もうありえないと思うしかない。どうしてそんなことになるのか、想像もつかない。でも、目の前でそれは起きる。実話を題材にした。事実は小説より奇なり、である。それを映画にしたこの作品は事実をそのまま映画にした、というような印象を与える。凄まじい映画だ。