久々のスティーブン・フリアーズ監督作品。『シェイプ・オブ・ウォーター』のサリー・ホーキンスが主人公を務める。これはいい。実はあまり乗り気ではないけど、まぁいいかぁ、と思い見始めてのだがすぐにのめりこんでしまった。最初は何の話だかわからない。だいたい主人公の彼女自身もわかってない。これからどうしたいのかもわからないまま、会社のやり方に腹を立てている。息子との付き合いで仕方なく見た芝居。シェイクスピアの『リチャード3世』。お話に納得いかない。リチャードはただの悪玉だったのか? 会社で仕事を干され、鬱屈していた彼女はリチャード3世の幻を見る。やがてリチャードについて調べ始めた。専門家ではないから最初は何をどうすればいいのかもわからないまま突撃していく。なんなんだこれは、と思う。
彼女はがむしゃらにリチャード3世の真実を追う。ふたりの子どもたち、別居結婚の夫は呆れる。仕事も休職して、リチャードの骨を探し出す。周りの人たちは異常だと思う。本人も。だいたい幻のリチャード3世は途中から喋り出すし。ほとんど病気だと本人も自覚している。
歴史の真実を掘り出し、リチャードの無念を晴らすのが答えではない。彼女は自分の手柄を大学に横取りされる。だけどこれはあまりに腹立たしい大学のやり方を批難する映画ではない。彼女は自分のために戦って勝つ。わけのわからないことに夢中になり、何かを成し遂げることで前に進む。
それが何処につながるかはわからなくていい。これは実話の映画化だけど、歴史の中に埋もれていた真実を見出す話だけど、ひとりの45歳の中年女が自分を探して自らの人生を旅する物語である。