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映画・演劇のレビュー

『モダンラブ・東京 〜さまざまな愛の形〜』

2022-10-26 11:04:05 | 映画

アマゾンプライムのオリジナル映画。7話からなるオムニバスだ。錚々たるスタッフ、キャストで全世界に配信される大作。僕は「ドラマシリーズ」ではなく故意に「映画」とここに書いた。独立した7つの短編映画だが、これは4時間半の1本の映画として受け止めたい。そういうふうに捉えるとこれはより大胆な企画だと思える。映画とドラマの垣根は低くなった。ドラマの映画版は続々と作られる。そんな時代に映画だとかドラマだとかいう分け隔ては無用だろう。だけど、映画館で見る映画は特別だ。意識の高い劇場向けの作品を映画と呼ぶとするなら、このドラマの目指したものは小さな映画だと呼んでもいいのではないか。

40分ほどの中編。でも7本つなぐと先にも書いたが4時間半の大作になる。東京を舞台にして、今の東京の姿(あるいはその全貌!)を小さな7つのお話のなかに象徴させて描いていく。この力の抜けた小さな映画の数々が、渾身の超大作にもなる。平柳敦子監督が1,6話を担当し、全体のショーランナーとなり、東京のいくつもの顔をさまざまな場所を舞台にしたラブストーリーを通して描いていく。長編や短編では描けないサイズのお話を最小のキャスト(いずれも主人公は2人)で見せていく。作品には出来不出来は確かにある。でも志はいずれも高い。今の日本を代表するベテラン、中堅監督が肩の力を抜いて、ワンシチュエーションのコンパクトな映画に挑む。そこに小さく開かれた世界を体現する。

なかでも第3話。あの60代男女の不器用な恋物語は素敵だった。(主人公がなんと僕と同い年という設定! まぁ、そこはどうでもいいですけど)伊藤蘭と石橋凌が演じる。マッチングアプリで出会った男女の初デート。原宿で待ち合わせて、1日を過ごす。30年(あるいは40年)ぶりの原宿には昔の面影はない。大人になってからはここは若者の街だから、と敬遠してきた。でもここには思い出はある。そんなふたりの、このなんだか初々しくてぎこちない1日をチャーミングに描いたのは山下敦弘。

さらには続く荻上直子の第4話、黒沢清の第5話。これが素晴らしい。この2本が今回のハイライトか。4話は鬱病の妻(夏帆)を支える夫(成田凌)のけなげな姿を描く。5話は黒沢流ラブストーリーでいつもながらの不思議なテイストの作品だ。永作博美とユースケ・サンタマリア主演。ユースケが謎の浮浪者を演じた。そして最後はあの傑作アニメ『平家物語』を作った山田尚子監督の(もちろんアニメーション)作品。高校生の初恋と今では30代の大人になった彼女の現在が交錯するキラキラした青春映画だ。ただ、2話を担当した大好きな廣木隆一作品がいささか残念な仕上がりでそこは少しショック。平柳敦子監督の2作品もお話が薄いのであまり感心しない。だけどここに切り取られた7つの光景は今の東京の一断面のスケッチとして素直に受け止められる。こういう作品が配信映画ならではの可能性を感じさせる。


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