習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『チェスト!』

2008-05-06 21:02:15 | 映画
 予告編を見た時から嫌な予感がしていたが、時たまこういうのもあるから、いくらなんでも、大丈夫だろうと思い、純粋に原作も好きだし、ぜひ見ておきたい、と思ったから、1日1回上映の困難な条件を乗り越えて劇場に行った。

 始まった瞬間、「やられた!」と思う。やはりそうだったのか、キネコである。今時こんな汚い映像を劇場で見せられるとは思いもしなかった。だいたいビデオ撮りでも最近は高画質で、フィルムとあまり変わりのないものも多い中、この映画はまるで駄目だ。わざわざスクリーンで見るような映画ではない。予告編のビデオ映像がそのままスクリーンで映し出されていた。ショックだった。

 とても悲しくなったが、しかたない。諦めて見ることにした。ビデオ撮り特有の滲んだ映像と、奥行きのない空間に辟易させられた。映画自体は原作をそのまま追いかけただけで、特別な仕掛けはない。3人が泳ぎの練習を始めてから泳げるようになるまでがあまりにあっけなくて、拍子抜けした。

 それにしても鹿児島の自然がビデオではまるで美しくない。青空とか、海の輝きとか、本当ならそれだけで感動できたはずのものがことごとく、しょぼく見える。予算の関係だろうが、なんでフィルムを使わなかったのだろうか。正直言うとこの映画は決して悪い映画ではない。それどころか、よく考えられて作られてある。

 単純なお話だが、それぞれの気持ちは丁寧にフォローされてあるし、原作どおりとはいえ、あまりに浮きまくっている高嶋政宏のおやじとか、やり過ぎも含めてバランスはいい。ラストの遠泳大会も誰かに焦点を当てただけのお話にはならず、誰もにとって大切な時間、として描けてある。競争としてではなくみんなが完走することの喜びが伝わってくる。地域と学校が一体となり子供たちを支えていく姿が感動的に描かれる。

 別に目くじら立ててこの映画を非難する気持ちはない。どちらかと言えば援護したいくらいだ。だが、これがただのビデオ映画であることだけは、どうしても許せない。映画が映画であるための第一条件は映像の広がりにある。それが損なわれたものを映画だと認めたくない。特にこの映画のように、青空や雲の流れだけで見ているものを幸福にしてしまうタイプの作品ではそれは許されないことなのだ。

 主題歌がいいし、松下奈緒の先生はかわいいし、とても好きなタイプの映画だ。それだけに残念で仕方ない。

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