この大胆なタイトル同様、映画本体も実に大胆。トリュフォーへのオマージュではない。何度となく見た予告編の「うん、暗殺、気をつける」という上白石萌歌のせりふには笑わされる。高校生が父親に会いに行くお話なのに、暗殺って、と。描かれるのは夏休みのささやかな冒険だ。高校2年生の女の子が初めて自分の実の父親に会いに行く5日間。家族には内緒で。父親はとても同級生のモジくん。細田佳央太)の兄(千葉雄大演じるこの「おねえ」の兄がとてもいい)である探偵に依頼して探してもらう。出てくる人たちがみんなヘンテコ。微妙におかしい人ばかり。モジくんの家のおじいさんとか、水泳部の先生とか。まぁ、主人公の2人からしてへんだし。
なんだかよくわからない映画だ。これはいったい何がしたいのだろうか、と見ながら戸惑うばかり。冒頭のアニメも、どうしてあそこまで延々とするのか、わからない。いや、わからないわけではないけど、そこまでしますか、と思う。そんなことしているから上映時間は2時間18分とこの手の映画としては異常な長さになる。でも、沖田監督は『横道世之介』で2時間40分だってやっているから気にしない。
夏休みの高校。水泳部の萌歌は校舎の屋上でなんかしている男の子(書道部のモジくん)を発見。同じアニメのファンで意気投合。彼女の秘密を聞いて、手助けする。両親の離婚によって幼いころに別れたままの父親に逢いたい。モジくんのお宅を訪問して(すごい豪邸。お屋敷だ)書道をするシーンがおかしい。さっき書いた「暗殺」というのも、彼女が半紙に書いた文字でもある。モジくんの家は書道家で、モジくんも近所の子供に教えている。出会いからここまで、さらにはこの後彼の探偵をしている兄のところに行き、父親の所在をつきとめてもらう。
その後、映画は父親に暮らす海辺の家に行って、そこで過ごす時間が描かれる。ここからが本題になる。豊川悦司演じる元父がいい。ほとんど初対面同士のふたりが過ごす数日間の出来事が描かれる。特別なことはないけど、海で泳いだり、一緒にご飯を食べたり。それだけ。映画は宗教団体の教祖を首になって、ふつうのおじさんになった彼が突然現れた娘に戸惑いながら、なんだか幸せな時間を過ごしていく時間が描かれる。とてものんびりした映画だ。何もないけど、それをじっくり描いているだけだけど、その長い時間がなんだか心地よい。ずっと続けばいい、と彼は思う。彼女も。そこにいつまでも帰らない彼女を心配してモジくんがやってきた。洗脳されたのではないか、とか。モジくんが来てなんだか腹を立てる父親がかわいい。彼に嫉妬している。高校生にお酒を飲ませて酔いつぶれてしまうという展開も楽しい。
内容としてはそれだけの映画だ。主人公のふたりの出会いから恋の始まりを描くはずなのに、父親のもとへの旅が映画のほとんどを占める。それだけにラストの告白シーンはほっとする。笑える。こんなにも初々しい告白シーンを今まで見たことがない。微笑ましい。どこにでもありそうなひと夏のお話を、少しヘンテコに描くとそれがなんだかとても新鮮な感動を呼ぶ。