こんな内容なのに、3時間近い上映時間。見る前はそこに少し尻込みしてけど、それほどの長さを感じさえなかった。コミカルな映画だ、と思ったのに、まるで笑えない。いや、確かに笑えるシーンはあるけど、引き攣るシーンのほうが多い。ハートウォーミングのはずなのに、戸惑いばかりが残る。何とも言い難いへんてこな映画なのだ。それは主人公のトニ・エルドマンが普通じゃないからだ。
都会で暮らす娘のところに行く心配性の父親(設定は、岡田あーみんの『お父さんは心配性』を思い出させる)という図式からは程遠い。もちろん、しんみりとした家族のお話にもならない。いたずら好きのお父さんはまるでお茶目ではなく、モンスターだ。彼に振り回される娘の災難が描かれるのだが、それがなかなか一筋縄ではいかない。過激過ぎて引いてしまう。昔のビートたけしのおふざけみたい。暴力的なのだ。
結果的には、迷惑の限りを尽くす。でも、憎めない、けど、なんだかなぁ、と思う。要するにバランスが悪すぎて、驚くのだ。安心させてくれない危険な映画だ。あの変装グッズと、それへのこだわり。しつこいなんていうレベルを超えている。カツラと入れ歯なのだが、ライナスの毛布みたいなもので、離せないのだ。
なんだか、彼女まで壊れていく終盤の展開は唖然とするしかない。というか最初から、茫然唖然なのだが、こんなバカバカしい映画が作られていいのか、と思うくらいふざけている。「『ムーンライト』や『ラ・ラ・ランド』『メッセージ』を抑え、2016年の映画ベスト1」とチラシにはあるが、そのチラシもふさけている。まぁ、確かに悪い映画ではない、というレベルだ。何も期待しないで見たなら、もしかして、そんなふうに思えるのかもしれないが、かなりやばい映画なので、感動大作だなんて誤解しないように。
もちろん、僕は『ムーンライト』や『ラ・ラ・ランド』『メッセージ』のほうがいい。