アスガー・ファルハディ監督の映画はこれで4本目だけど、いつも容赦ない。今回も主人公の夫婦が自分たちのせいではなく、壊れていく。自宅で乱暴された妻のために、犯人を捜し出す夫は彼女の思いなんかまるで考えてない。インテリ層の傲慢さが鼻につく。彼は自分が正しいと思っている。だが、その行為がどれだけ彼女を傷つけるかは考えない。さらには、感情的になり、犯人を監禁する。犯罪者になるスレスレのところで、なんとか踏みとどまれるが、果たして、踏みとどまれたか。この夫婦が壊れていくのは、誰のせいか。
夫婦は小劇団に所属している。仕事の後で、そこで役者をしている。今『セールスマンの死』を上演している。劇中劇としてこの芝居がかなりのスペースを示す。映画の内容とリンクしているが、説明不足で、わかりづらい。映画のタイトルもそこからきているのだが、なぜこのタイトルなのかは、わからない。そんなこんなで、 いろんなことが、謎だらけ。
悪い映画ではないけど、(というか、いい映画だけど)なんか、後味も悪いし、納得できない。彼女がどんな目に遭ったかは、はっきりとは描かれない。そこを明確にする必要はないという判断なのだが、そのせいでだれのも感情移入できない。冷静に判断せよ、ということだろうが、大事なことは判断することではない。絶対的に正しいことなんか、ない。そんなこと、わかっている。白黒つけることが大事でもない。それも、わかっている。しかし、じゃぁ、この映画はどこに行こうとするのか。そこさえわからないのでは、戸惑うしかない。