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映画・演劇のレビュー

小手鞠るい『時を刻む砂の最後のひとつぶ』

2010-07-12 23:27:42 | その他
 短編連作である。「ひたむきに狂っていく男と女」だそうだ。残念だが、これではやはりダメだと思う。彼女が描きたいことはわからないでもない。だが、ここまでペラペラな人間描写では、まるで納得がいかない。彼らを駆り立てる狂気がまるで伝わらない。頭の中で作っただけのお話で、彼らを衝き動かす衝動的な感情にリアリティーのかけらもない。

 全体の構成もなんだか中途半端で感心しない。独立したエピソードと、連続する話のバランスが悪い。父と娘。父の愛人。作家夫婦。その作家の憧れる少女。若い作家志望の恋人たち。編集者。それぞれのエピソードの描く世界も狭すぎる。話が広がらない。もちろん作者には話を広げる気はないのかもしれないが、それにしてもご都合主義すぎる。
 
 恋愛ものがどうこうとは言わない。要はその描き方である。安易に話を作ってはならない。彼女たちの痛みが読み手にもちゃんと伝わらないことには小説にはならない、と思う。題材は悪くはないだけに、この消化不良をなんとかして欲しい。今回久々に彼女の本を2冊読んでみて、また、あと5年くらいはもういいか、という結論を出した。

 描こうとしていることは興味深いし、人間って理屈の通らない行動をしてしまうことって確かにある。特に恋愛に関しては。そこを小手鞠さんは描きとろうとしている。彼女の意図は十分理解できるが、あまりにストレートすぎていくら小説とはいえリアリティーがなさすぎる。たとえ、現実でこういうことがあろうとも、小説でそれをされると、理不尽になる。そこにはこのケースにだけ適応されるリアルがなくてはならない。

 しゃべれない少女が自分の気持ちを代弁してくれる作家と出会う話(『美しき異邦人』)は、ギリギリのところでなんとか成立しているが、他の話はすべて失敗だ。説得力がない。実話をもとにした第1話『残された時間』ですら、リアルではない、というところがこの作家の今の限界を示す。


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