先日発表されたアカデミー賞6部門ノミネートに輝くこの傑作映画は日本では劇場公開されず配信公開。結果的に圧勝した『オッペンハイマー』よりこちらの方が面白い。
これは一応コメディには分類されてはいるが、この映画が描く世界は怖い。この映画が描く黒人差別に対する視線は冷ややかで厳しい。笑えない。無意識の差別。良識ある白人層が善意から理解ある自分アピール。ステレオタイプの認識で自分たちのこと正しいと思っている。
主人公は黒人作家。彼の小説は一般受けしない。腹立ちからいかにも大衆受けしそうな小説を匿名で脱獄囚のフリをして書いた。白人知識層は彼が書いたそんな陳腐な小説を大絶賛することに躊躇しない。
さらにはハリウッドのメジャー映画をこき下ろす。なんとその小説は映画化されることなり、彼は莫大な契約金を手にする。小説はその年の文学賞も受賞する。(しかも自分が審査員をしている。当然つまらない小説だから彼は押さないけど、受賞してしまう)安易な映画が大衆に支持されて受け入れられる。
そんなドタバタ騒ぎをシリアスな家庭劇と並行して描く。認知症になった彼の母親の介護問題と絡めて描くのだ。兄は同性愛者で母はそれを受け入れられない。死んだ父は白人女性と浮気していたことを知る。姉は突然死する。自分は大学で教えているが、なかなか新作が書けないし、書いたものも受け入れられない。冗談で書いた世間が求めている黒人を描いたくだらない小説が75万ドルで売れ映画化される。まさかの展開。メタフィクションを通してリアルな心情に迫る。軽くて重い見事なバランス。ラストの爽やかな幕切れも見事だ。大衆を舐め切ったハリウッドのバカプロデューサーに何も言わずに去っていく。受け入れられないことを受け入れる。何を言っても通じない。