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映画・演劇のレビュー

今村友紀『クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰』

2011-12-15 22:31:09 | その他
 女の子のような名前だが、この作者は男の子である。わざとこういうペンネームを付けたがる新人作家っている。まぁ、別にどうでもいいけど。文芸新人賞受賞作品だ。3・11以後を描く気鋭の新人作家、らしい。高橋源一郎がそう帯に書いている。だが、読んでいてこんなのを持ち上げるのはちょっとどうなのか、と思った。

 正直言うとつまらない。なんだかわからない現実を突きつけられてわからないまま生き残るために戦う少女のお話だ。この不思議な出来事を震災や津波に置き換えたら確かに3・11以降のドラマとなる。ここに描かれる出来事の理由は一切解明されない。突然目の前で起きたとんでもないことにおたおたしながらも、なんとか生きて行くため、わからないまま生きるしかない。説明不要とばかりに災害が彼女を襲ってくる。

 もちろん地震を始めとする天災には理由なんかない。問答無用だ。ひとりの少女のサバイバルが描かれる。最初は何が起きたのかわからないまま、流されるように時間を過ごす。自分ひとりではない。生き残った学友とともに学校で過ごす。先生たちがなんとか危機を回避できたと判断したら家に帰すという。だから指示のまま最初はグランドに、次には体育館に、と避難する。一夜が明けて、徐々に状況が飲み込めてきて、なんとかこの現実のルールのなかで、生き残る術を見出そうとする。だが、圧倒的な不条理に為すすべもない。家に戻り、だんだんこの世界の時空が歪んでいることに気付き、どうしようもない現実におろおろする。

 怪物が襲う。時空が歪む。自分以外の人間が、誰もいなくなる。どこにむけて、どうすればいいのか、それすらもわからない。わからないままただサバイバルしていくしかない。結局それだけなのだ。それ以上の展開はないまま、終わる。なんだ、それだけですか、と思う。現状を突きつけただけ。それが新鮮だとでも言うのだろうか。でも、それって、それだけでは小説ではない。その先を小説は描くものだ。もちろんそれは状況説明である必要はない。もっと違う「何か」である。それを描け! こんなところで終わられても誰も納得はしない。



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1 コメント

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好き嫌いが分かれそう (紙風船)
2013-10-26 02:11:38
今村友紀さんの新作『ジャックを殺せ』を読みました。
なんて読みづらいんだ~そして、さっぱりわからない。ちょっとこれは、私には合わなかったな~

birthday-energy.co.jp/
ってサイトは今村さんの本質にまで踏み込んでましたよ。彼の旬はあと10年ほど。商売しながら、作家なんかやっては、キミには向いていない。なんだそうですよ~。参考にしてみてくださいね。
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