習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『サンバ』

2015-01-16 23:37:36 | 映画

このタイトルではこの映画内容を的確に伝えない。映画のタイトルが顔だとしたら、これはあまりのミスマッチだ。もちろん、見終えたとき、なるほど、と納得させられる。「実にいいタイトルだ!」と思う。でも、それではこれから見る人にアピールしないのだから、宣伝としては拙いだろう。難しいところだ。

『最強のふたり』の監督と主演コンビ(エリック・トレダノ&オリビエ・ナカシュ監督と主演のオマール・シー)が再タッグを組み挑む新作、という売りは、観客にはアピールしない。最強のふたり、というのは主役の2人のことで、監督と主演のことではない。しかも、監督は2人によるコンビで、じゃぁ、彼らこそ、最強のふたり、なんて、そういうのも、この映画の宣伝にはならない。ここまで、こんなくだらないことを書いたのは、この映画がまるでヒットしていないからだ。公開から3週間で消えていく。しかも、公開3週目は西宮では一番小さなスクリーン(60席)での1日1回上映だ。あれだけ大ヒットした前作との差はどこにあるのか。そんなこと、わかりきっている。この映画が地味だからだ。全く観客にアピールしない。それは日本だけでなく、本国フランスでも同じだったのではないか。

だが、僕はとても面白かった。『最強のふたり』よりもこっちのほうが好きだ。いくつか読んだ批評での評判も最低だが、そうじゃない、と思う。前作のヒットを受けて自分が作りたい映画が作りやすい状況になった(はず、たぶん)彼らが選んだ素材は、移民の問題だ。アフリカからフランスに出稼ぎに来て、市民権を取得できないまま、不法滞在している人たちにスポットを当てた。前作では、障害者の自立を取り上げた彼らが今回こういう題材にチャレンジするのは、理にかなう。

前作が男2人の友情だったのに対して、今回は男と女にした。だから、どうしても恋愛感情が挟まる。邪魔だ。そこを排除して見せればいいのだが、それも不自然。(同じ日に見た『海月姫』はそこを難なくクリアしていたけど、あれは少女マンガで、若いふたりだから可能だった?)

ノーテンキなアフリカ系黒人男子と、ノイローゼに罹った白人女子。基本的には前作のふたりの関係性を踏襲している。作りが甘いのも同じ。特にラストのそれはないだろ、のハッピーエンドも僕は悪くないと思う。ただ、扱う問題が前作と違ってかなりシビアで、ファンタジーのようには見せきれない。リアルにしかならない素材なのだ。そこを同じようなアプローチで取り組んだことで、観客から見放されたのではないか。でも、この映画が描く現実は想像できる範囲内ではあっても、とても痛い。フランスの警察の彼らへの扱いもわかるけど、理不尽だ。見つかったなら、国外退去させられる。いつも警察に怯えながら暮らす。アメリカ映画ではよく描かれているし、近年では日本でも問題になる不法滞在の外国人労働者を、フランスの場合として、クローズアップした。そういうふうに言うと、これは別に新しい映画ではない。

ただ、監督のふたりがこの映画を取り上げて、主人公たちの置かれた現状をちゃんと丁寧に見つめることで、提示したものは僕は興味深い。彼らがやりたかったことが、ようやく見えてきた気がしたのだ。前作はなんだか、うそくさいと思った。悪い映画ではないけど、みんなが支持するようなおもねった作り方が鼻に付いた。でも、実はそうではなかったのだ、とこの映画を見て気付く。彼らの青臭いヒューマニズムは、人間への信頼に根ざす。どんな状況でも、なんとかなる、と思うことで、生きていける。それを一概に甘い、と一蹴するのはなんだか違う気がした。前作を高く評価したのに、今回は掌を返したように否定する批評家を僕は信じない。(というか、そんな人がいるのかどうかも、知らないけど)前作を支持したのに、今回はそっぽを向いた観客は仕方ないなぁ、と思う。だって、観客はわがままだし、気まぐれだから、ね。



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