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映画・演劇のレビュー

『アンナ・カレーニナ』

2013-03-31 21:30:34 | 映画
 今更こんな古臭い映画を作る意味がどこにあるのか、と呆れた。だが、チラシをよく見ると、これは『プライドと偏見』『つぐない』のジョー・ライトの最新作だったのだ。もちろん主演はキーラ・ナイトレイだ。この黄金コンビが挑むというのなら、これは必ず意義のあるものになる、と確信して、劇場に向かう。原作は言わずと知れたトルストイの名作である。時代錯誤としか言いようのない古典をわざわざ現代に映画化することにどんな意味があるのか。全然わからないから、楽しみだった。もしかしたらこれはなんだかよくわからないけど、凄い映画になるのではないか、と期待した。

 そして、その期待は見事的中する。クラシックの文体を生かした、このオーソドックスな文芸大作を、舞台劇のスタイルを駆使して豪華絢爛に見せる。様々な縛りが、アンナの向き合う困難とオーバーラップしていく。やがてここに描かれる不貞の純愛は至高のものとなる。

 アンナは冷静に対応していたはずだった。だが、タガが外れてしまう。そのありきたりな展開なのだが、そんな一見つまらないメロドラマのはずが、その圧倒的な心のうねりに飲み込まれていくなかで、なんだかわからないけど、行っちゃえ、って気分にさせられていく。夫の抑圧からの解放とか、夫の無関心からの反発とか、そんなこんなの理屈からではなく、どうしようもない心情に納得させられていった。

 不倫物語は情熱の恋愛劇へと変貌する。しかし、それは彼女にとっては破滅でしかない。心のままに生きることは尊いことかもしれないが、それは必ずしもハッピーエンドにはならない。だが、それでも突き進むしかないのではないか、と思わせる。破滅は覚悟の上で、やり尽くして行ったその先にある未来をこの映画は見せてくれる。華やかな舞踏会のシーン。豪華な衣装に包まれた役者の動きに合わせて動き出す舞台美術は贅沢の極み。そんな世界の中で、本当の幸せを求めるアンナの魂の旅が描かれていく。


 アンナの自殺は当然の報いというわけではなく、その先にある風景こそがこの映画が描こうとしたものなのだろう。とても穏やかで美しいラストシーンが用意される。この大河ドラマが描こうとした幸福がそこには確かに見える。


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