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映画・演劇のレビュー

多和田葉子『地球にちりばめられて』

2018-07-08 21:00:47 | その他

 

たとえ世界(というか、故国なのだけど)が滅びても、自分はこうして、ひとりで、でも、ここで生きている。もう誰も覚えてもいない日本という極東にあった島国の生き残り。今、彼女はヨーロッパのかたすみで生きている。彼女は、失われた母国語を守るのではなく、生きていくために自分ひとりで新しい言語を作り上げる。自分がその言語の創設者だ。そしてその言語を使うのは彼女しかいない。そんな言葉に意味はあるのか? 

そんな彼女のお話だ。そして、彼女が滅んでしまった自分と同じ民族だった人間を捜す旅が描かれる。同じ言語をかってしゃべっていたはずの存在との邂逅。失われた祖国を求めるのではない。彼女はもうそんなものには興味はないはずなのだ。自分語を作ってそれを駆使して生きているはずの彼女にとって失われた言語なんか無意味なはず。では、この旅はどこに向かう旅なのか。

 

そこに集うことになる別々の言語(祖国)を持つはずの5人の仲間たち。とあるスシ職人を探し出し、さらにはスサノウという男にたどりつくまで。この予測不能なドラマの行方は?

ここには一切「日本」ということばが登場しない。あえてそこが避けられるこの長編小説は、世界をまたにかける5人のそれぞれの想いが綴られていく。それがやがてはどこにたどりつくことになるのか。全十章の前半5章は5人の視点から描かれる。後半5章は主人公である2人、そしてスサノウのお話。彼女が知りたいのは滅んだはずの国の生き残りと日本語で会話をすることではない。では、何が望みなのか。彼女を助ける4人もまた、それぞれ想いを抱える。自分とは何なのか、が知りたい。これは言語をめぐる旅の物語だ。

 

これは十分にあり得る「ある種の寓話」なのだが、その描こうとする壮大なスケールには圧倒される。国は滅びてもは言語は残るのか。


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