1994年から98年。舞台は大阪から、やがて東京へ。大学は卒業したけれど、就職もせず、もちろん、音楽で食べていけるわけでもない。(彼は下手なベーシストでプロを目指していたわけでもないし)何もせずにくすぶっていた。そんなとき「松浦亜弥」と出会った。彼女の熱狂的なファンになり、それを通して同好の仲間と出会い、充実した時間を過ごすことになる。そんな「あの頃」を描く。
これはアイドルの追っかけの話だ。彼らはただのオタクでしかない。そんな彼らが映画の主人公になる。そんな映画が作られるって、それだけでなんだか奇跡的だ。主人公を松坂桃李が演じる。
20代前半の時間をこんなことのために費やしていいのか、と思う人はこの映画を見る必要はない。こんなこと、と言われても仕方ないくらいにバカげたことかもしれないけど、彼らにとってこれはかけがえのないことで、何かに夢中になって充実したときを過ごせるって、すばらしいことだ。もちろん、こんな毎日がずっと続くわけはない。そんなこと、誰にだってわかっているはず。だから、彼らにもまた、不安はずっとある。だけど、あの頃、あの瞬間は幸せだった。それは事実で、映画はその愛おしい時間をじっくり見せてくれる。彼らにとって至福の時間だ。ラストでは仲間の死を描くのに、それでも幸せだったと言えるのがいい。
このバカバカしい毎日を大切に思う。そして、その先に今の自分がいる。ただしその後にあたる98年のエピソードもこの映画は「夢のあと」とは描かない。あの続きとしてそのまま描くのがいい。あの頃はよかったと、回顧的に描くのではなく、何があっても常に今この瞬間が素晴らしいと思い生きている。そんな主人公に共鳴する。「あの頃。」を描きながら、それがノスタルジアではなく、今につながる。今、ここで生きていること。それを大事にしたいと思わせてくれる。これはそんな映画に仕上がった。