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正確に言うとこれは『桜風堂ものがたり』2作の続編ではなくスピンオフ。今回主人公の一整は、脇にまわり、桜風堂書店(というか、一整)の周囲の人たちが繰り広げるエピソードが描かれる。だけど、最後の1篇はやはり一整が主人公だった。というか、彼の視点から描かれるけど、この世界のすべての人たち(幽霊や妖怪とかも含む)お話になる。書店のお話だったのに、これは童話のようなファンタジーになっている。桜風堂のあるこの小さな町の不思議が描かれている。ここには生きているものだけではなく、もうここにはいない人や、遠く離れたどこかにいた(今もまだ、「いる」)人も、いる。彼らが誰かに会うため(助けるため)に現れることがある。そんな不思議の場所なのだ。リアルズムの前2作とはテイストが違い少し戸惑うかもしれない。
3人の少年たちの冒険を描く児童文学のような最初の第1話『秋の怪談』を読んだとき、そう思った。だけど、これはこんな小説なのだと思うと、違和感は薄れる。ここから始まり、最後の4話まで、大好きだった『桜風堂ものがたり』がこんなふうに生まれ変わり、しかもここでちゃんと完結するという幸福に包まれる。本を読むのが大好きなのは、きっと現実にはない現実を超える幸福がそこに描かれ、それが自分たちの生きる今の現実を同じように幸福へと導いてくれるからだろう。現実逃避のための読書がちゃんと現実をみつめ、ここで生きることを大切にするための道しるべとなる。このささやかな本を読んでそんなことを思う。
死者が優しい。一整の妹や父が今この瞬間も、ここにいて、彼を見守っている。でも彼自身はそんなことに気づくこともなく、ここで本に囲まれて幸せに暮らしている。そこにたくさんの人たちがやってきて、思い思いの本を手に取る。そこから素敵な旅が始まる。