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パリ郊外にある公営住宅、ガガーリン団地。老朽化が進み、居住者の高齢化もあり、空き部屋は増えていき管理が行き届かない。廃墟と化した棟もある。2024年のパリオリンピックにむけて取り壊されることになる。これはそこに住む少年たちのお話だ。
映画はドキュメンタリーのようなタッチで始まる。実際この団地が出来た時のニュースフィルムの映像から始まる。少年たちはここを守るためになんとかしてこの解体を阻止しようとするのだが、彼らの地道だけれど、微力な抵抗だけではどうしようもない。決められたものを動かすことはできない。
取り壊すのを思いとどまらせるためにささやかな抵抗を試みる。消えたままの電球を交換したり、壊れたままのエレベーターを直そうとしたりと、笑ってしまいそうになるような地道な努力を繰り広げる。そうしてやがて映画は、悲惨なお話ではなく、気づくとなんだか不思議なファンタジーの感触を持つ映画になる。少年の努力の先には、唐突に彼の夢の世界が現れる。(というか、彼がそれを作り上げるのだ。)ここからは完全にファンタジーだ。
古いものはやがて朽ちていき、なくなるしかない。そんな諦めが人々の心を支配する。だけど、この少年だけは諦めない。彼を置いて出ていった母親がここに戻ってくると信じるから潰したくない。仕方なくここを去っていく人たちを見送る少年の孤独と、寄り添う少女。ふたりのラブストーリーにもなっていく。ロマンチックなお話が残酷な現実と寄り添い駆逐する。彼は無人の住宅を改造して自分の世界を作る。そこは彼の宇宙船だ。空想の中でガガーリンになって宇宙を旅する。やがて彼は現実から遊離していく。みんながここを出ていき、やがて誰もいなくなった団地にそれでも留まり続ける。
何が現実で何が空想なのかなんてどうでもいい。いつのまにか、その境界線は消えてなくなっている。やがて解体の日がやってくる。彼だけはそこにまだいる。たくさんの人たちに見守られて、解体の工事が始まり、爆破装置が押される。だが、爆破は起きない。それどころか、一斉に光が差す。少年のいたずらか。団地が爆破される瞬間、少年がまだ残っているからと工事関係者の阻止を振り切り、少女は団地に飛び込んでいく。少年が助け出される。
映画の終盤の展開はどこまでが現実でどこからが空想なのか、よくわからない。すべてが現実であってもいい。それでも解体は変わらない。消えていく前の最後の夢。ひとつの時代の象徴が消えていく。彼らがここで生きた日々は確かな現実だ。だけど、すべてが夢のようでもある。これは少年の見た夢。