習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『幻土』

2022-03-05 14:31:44 | 映画

埋立地の拡張工事が延々と続く。そこで起きた工事関係者の失踪事件。それを追う刑事がやがて、現実と幻想の境に落ち込み、自分を見失っていく。いなくなった男が見た光景を刑事もまた見る。それはただの妄想なのか。まるで本当にあったことのように鮮明にその時の彼の姿が見える。それは消えた男の夢の中に連れていかれるように。

シンガポール映画だ。最初はどこの映画なのか、よくわからなかった。描かれる埋め立て地の光景やそこで働く労働者の姿だけではここがどこなのかわからない。やはりこれは中国なのか、マレーシアか、とか、バングラディシュなのか、とか。この国籍不明の荒涼として光景がシンガポールで、あの国はなんと今も今までもずっと隣国から土を購入して、国土を埋め立てで広げ続けているという事実を知らされる。だからここはシンガポールだけど、ベトナムやカンボジアや、インドネシアでもあると。

これはビー・ガンの映画を思わせる作品だ。『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』や『凱里ブルース』である。あの不思議な感覚に似ている。よくわからないのに、見続けてしまう。現実と幻想の境目が定かではない。不眠症刑事の見た夢が現実の失踪事件と重なったのか。いや、事件を追ううちに、彼自身が事件に飲み込まれてしまったのだ。ネットカフェで過ごす時間、そこで出会う見ず知らずの人たち。会話を交わすけど実体はない。見えているけど、見えていない。どこに行きつくのか。その先には何があるのか。いなくなった男を追ううちに自分もいなくなり、さらには彼らを探し出すはずの刑事自身もいなくなる。現実はどこにあり、どこかに確かに届くのか。

たまたま夜中に一度目が覚めたらその後、眠れなくなったので、深夜の1時半からスマホでこの映画を見た。そんな僕自身の置かれていた現実までもがこの映画の中の出来事のようだ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ガガーリン』 | トップ | 『Ribbon』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。