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映画・演劇のレビュー

辻堂ゆめ『サクラサク、サクラチル』

2023-11-25 11:31:00 | その他

東大卒の作者が描く東大を目指す受験生を描く青春ミステリーという触れ書き。凄い緊張感を持続させる受験までの8ヶ月間。渾身の力作である。

両親からの過剰な期待を担って受験に向けて頑張る高校生を描く、というレベルではなく、これはもう虐待。そのことを知らないのは本人だけ。クラスメイトの女の子からあなたは虐待を受けていると言われる。彼女は貧困母子家庭で,状況はまるで違うが、同じように虐待されて生きてきたからわかるという。あなたからは自分と同じ臭いがする、と。
 
そんなふたりのサバイバルが描かれる。これはかなりのイヤミス。気分が悪くなる話。だけど先が気になって止まらない。350ページを結局ほぼ一気に読んでしまった。ラストはほっとする終わり方でよかった。(少し甘いけど、そこまでが残酷すぎたから、安心した)
 
それにしても,これは残酷すぎて目を覆いたくなるような設定だ。いくらなんでもこんなバカな親はいないだろうとは思うが、これくらいの誇張は虐待された側からするとあり得る恐怖かもしれない。リアルではないけど、何があるかわからない世界だから、こんな家族もあり得るかもしれない。
 
親からの過度の期待に押し潰される子どもたち。受験と貧困。経済的には豊かなはずの家庭の精神的虐待。文字通り経済的に貧困な家庭の虐待。ふたりの生きる現実という背景をしっかり描きながらそこからの脱出までが描かれる。高校生だけど、人間だから、生き残りを賭けて理不尽な親と闘う。これはそんな壮大なドラマなのだ。

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