渾身の力作だ。邂逅として出来る限りのことをこの1作に込めた。上演時間が90分である。コンパクトに収めたわけではない。不要なものはとことん削ぎ落とした。大事なものだけ残した。なかなかできないことだ。力を込めたら込めるだけ長くなるのが人情だ。あれもこれもと詰め込みたい。たくさん取材し、いろいろ書きこんだなら、どうしても削れなくなる。でも、そこをばっさり、カットする。というか、最初から書かない。必要最小限に止める。それって、簡単そうに見えて簡単じゃないことは誰もが、経験から知っていることだろう。
これまで邂逅はそこで何度となく失敗してきた。描きたいことはたくさんある。みんなの見せ場も作りたい。当り前のことだ。でも、そこを抑えて、作品に奉仕する。それにしてもあまりといえばあんまりな大胆さ。ここにはストーリーなんてほとんどない。1行で説明可能なお話にした。これはもう、わかりやすい、なんてレベルではない。何も話はない。でも、それでいいじゃないか、と居直る。桜の森にすむ為平親王(中村多喜子)のもとを訪れる藤原道長(山本あす美)。いきなりのクライマックスだ。ふたりの対決を描く冒頭のエピソードから、ラストの都にやってきた為平と5人の物の怪たちが暴れるエピソードまで。一気に見せる。
ほとんど中間はない。そのかわり中心となる見せ場のシーンでは十二分に時間を使い、たっぷりと見せきる。もちろん歌や踊りも手を抜かない。やれるだけやろうという心意気が伝わる。ここを見てくれ、という彼女たちの想いがしっかりと伝わる。だからこれでいい、と思う。いや、これがいいと、思う。豪華絢爛たる衣装(これは彼女たちの最大の武器だ)と舞台装置。華やかな舞い。けれんみたっぷりの芝居、大立ち回り。実に堂々としていて楽しい。やる気が伝わる。無駄を排除して必要なものを、シンプルの極みで見せた力作である。