タナダユキ監督の最新作。こんなタイトルなのに、甘い話ではない。主人公を演じる大島優子はずっと不機嫌だし、彼女の周囲にいる人たちはみんな彼女を不愉快にさせるばかり。何もいいことなんかない。ロマンスの種は彼女の周囲にはゼロ。なのに、このタイトルなのは、彼女の仕事がロマンスカーの販売員だからなのだが、もちろん、それだけではない。
恋人のようなヒモ男はお金をたかるだけ。職場の同僚はグズでドジ。万引き男を追いかけて、仕事が出来なくなる。その万引き男のおっさんと、二人で旅をすることになる、というのが映画の本題なのだが、自殺をほのめかす母親からの手紙を頼りに、彼女を探す旅に出る。昔家族3人で伊豆の旅に行ったこと。それが彼女の唯一の幸せな記憶。それは母親にとっても同じで、その後夫に去られて、最悪の人生を過ごす。その犠牲者になったのが娘である主人公の鉢子(だいたい、この投げやりな名前からして凄い)。
高校卒業と同時に家を出て、母親とは縁を切っていた。そんな母親から届いた手紙。それがその日の憂鬱の原因だ。おっさんはなぜか、その手紙を読んで、彼女を半分拉致するようにして、彼女の思い出の場所を一緒に辿ることになる。正直言って迷惑なのだが、なぜか、おっさんの情熱にほだされる。(でも、このおっさん、訳がわからない。人のことに首を突っ込んで、必死になるし。でも、なんか信用できないし)
要するに、これはちょっとしたファンタジーなのだ。ふつうそんなことは起こり得ないし、年頃の娘はこんな胡散臭いおっさんについてはいかない。45歳、自称映画プロデューサー、でも、詐欺師にしか見えない。こんなおっさんと若い娘の1泊2日のプチ旅行。ない、ない。
もちろん、2人の間に恋がうまれるはずもない。だいたい気持ち悪いし。でも、彼女は別にどうなってもいいし、と思う。(ここが実は重要なポイント!)だから、仕方なくラブホテルに泊まらなくてはならなくなり、おっさんに襲われそうになっても、いいかぁ、と思う。(おっさんはそんな彼女を見て、理性を取り戻すのだけど)彼女の投げやりなところって、何なのか。
彼女は最初から最後まで彼のことを「おっさん」と呼ぶ。ひとりの名前のある人間としては扱わない。まるで自分とは関係ない他人でしかないからだ。それは、彼に対してだけではなく、誰に対しても、だ。心を開くことはない。そんな頑なさがこの映画の身上だ。
幼いころから、男狂いの母親と生活して、うんざりして生きてきた。すべては、優しかった父親が出ていったことに始まる。両親の離婚から人生を狂わせ、心を閉ざしたまま。そんな彼女のお話なのだ。
普通ならそんな彼女が生きがいを見つけるとか、愛することが出来る人と巡り合うとか、もっとなんとかなりそうなものなのに、そうはしない。だから、これはとても寂しい映画だ。でも、そんな寂しさを受け入れるしかない。人生にはロマンスなんか転がってはいないから。
タナダユキの映画のヒロインたちはいつも、そうだ。救いようがない状況にいる。でも、彼女たちはそんな自分にうんざりしてはいない。そこでしっかりと生きていく。それが彼女たちの矜持なのだ。