劇団大阪がプロデュースする「谷町劇場えんげき塾」という企画は半年間のワークショップ、本公演の稽古を通じて演劇について学び、その成果をこの卒業公演として披露するというもののようだ。この劇団は先行する「シニア演劇大学」に続き、実に意欲的な取り組みをする。
今回の作品は伊地知克介さんのオリジナル。3話からなるオムニバスだが、いずれも「ごはん」を巡るお話で、「米とわたしたちについての三つの物語」と銘打たれる。シンプルなチラシが素敵だ。そこには「食うぞ。生きてくぞ!」という力強いコピーが書かれてある。
昨年書かれて上演された『いなびかり』に新作2本を追加して、3本からなる短編連作とした。朗読劇としてリーディングスタイルで上演された『米屋は無事か』は、今回の塾生キャスト5名に劇団大阪の松下和馬を加えた今回のフルメンバーでの作品。東日本大震災を題材にして、バカな米屋のバイタリティ溢れる行為がみんなを勇気付ける。シンプルだが力強い作品だ。冒頭の摑みとしてもインパクトがある。
そのあとの『いなびかり』で、しっとりした気分にさせて、最後の『フラッシュ』でしっかりと締める。全体の構成が手堅く、上手い。激しい動に芝居に、静かな芝居と、日常生活を描くさりげない芝居。3本がそれぞれ違う趣向を凝らしてある。
『いなびかり』は都会で疲れて田舎の村に戻ってきた男と、ここに留まる男のお話。そんな2人の姿を描く。村の行事である「ひとり相撲」の稽古だ。だから、2人は、まわしをつけて、舞台に立つ。なぜ、帰ってきたのか。これから、どうしようとするのか。彼はこの村祭りのイベントに参加し、どうしようというのか。彼の背後を説明しない。コンビニ強盗の話を持ってきて、そこまで追い詰められていたことだけは明確にする。だが、そんなこと、どうでもいい。ここで、こうして生きようとしているという事実だけでいい。腕を折ってしまい、彼に代役を頼んだ男は、何も聞かない。過疎化した地方の村を舞台にした小さな作品だ。だが、短編だからこそ、描ける世界をちゃんと提示してくれる。好感の持てる作品だ。
3話目の『フラッシュ』は少し話が出来すぎ。しかもテーマの提示の仕方が安易。わからないではないけど、もう少し、ふわっとした作品にしてもいいのではないか。幼児虐待の問題を取り上げて、ミステリ仕立てにした。短編としてはかなり難しい。だが、できることならここでも『いなびかり』のような緩さが欲しい。それは甘えではない。ここには余白がないのだ。お茶碗に塩を盛ってそれを子供に食べさせるというショッキングな行為が生きてこない。
5人のえんげき塾の生徒たちは実に誠実で気持ちのいい芝居を見せてくれる。それを演出の武藤さんがしっかりと包み込んでいく。優しい芝居になった。塾生たちにとって芝居とは何か、という根源的な問いかけに答えてくれる作品だったのではないか。見ている僕たちも芝居に対して改めて襟を正したくなる、そんな作品に仕上がっているのがいい。真面目で誠実な台本と演出、指導が実を結んだ。