習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『パッチギ! LOVE&PEACE』

2007-04-14 10:41:25 | 映画
 前作の圧倒的な感動から2年。再びあの『パッチギ!』がスクリーンに帰ってきた。今回は68年の京都から、6年後の74年東京に舞台を移し、主人公たちもキャストを変えて、日本というくだらない国で生きなくてはならなかった在日朝鮮人家族の苦しみを、父の世代から3代に亘る大河ドラマとして見せていく。

 済州島から、ボルネオへ、そして日本へ。かっての父の旅を追いながら、映画はラストでベトナムの南北統一(75年だ)までを視野に入れた圧倒的スケールのドラマとして『パッチギ!』第二章は語られていくことになる。ここまできたなら、次の完結篇は80年代のソウルにするしかあるまい。日本人、在日朝鮮人、韓国人(もちろん北の人も視野に入れる)の関係をさらに明確に描かなくては、この映画は終われなくなってしまった。凄いことだ。

 作品としては、青春映画として、今までタブーだった在日の側から日本と朝鮮との物語を描いた前作と比較して、破綻も大きく、作り手がいったいどこまで描けばいいのか、明確にできていないため、失敗作となったが、そんなことしかたない。いまだかって作られなかったものにチャレンジしてるのだから失敗を恐れていては何も出来ない。

 テーマがあまりに大きくなりすぎて、ポイントが絞りきれず、この映画が一体何を見せたかったのかが、伝わりきらなかったのである。

 東京のコリアタウンを舞台にして、アンソン一家が時代の壁にどう立ち向かっていくのかが描かれていく。核になるのはアンソン(井坂俊哉)の息子チャンスの筋ジストロフィーの治療という、どうしようもないことを巡るドラマだが、彼の命を救うためにアンソンとキョンジャ(沢尻エリカではなく、中村ゆり)がそれぞれヤケクソの戦いを繰り広げていく姿が描かれる。それが結果的には、在日朝鮮人が<日本>という国に喧嘩を売っていくという図式に重なっていく。まだまだ在日に対する差別が強烈に色濃い時代の中で、2人はそれぞれのフィールドで必死に戦いを繰り広げていく。

 だけど、ここには前作のような爽快感はない。キョンジャの芸能界進出を描く部分は、どこまでが本気なのか、と思わせるくらいにあまりにいいかげんでリアリティーのない描写が目立つ。70年代の日本のテレビ界、映画界ってここまで酷い状態だったのだろうか。わざとデフォルメしているにしても、あまりに封建的であったり、杜撰な部分が多すぎてついていけない。いくら芸能界はヤクザな世界とはいえ、ここまで酷かったのか?ここで描かれる大作戦争映画『太平洋のサムライ』ってあきらか東宝の『大空のサムライ』がモデルで主人公のロンゲは藤岡弘だが、ここまでやっていいのか。

 井筒和幸はあの時代を知っているわけだから、ここで描かれることはあながち嘘とは言い切れない。と、すると別の意味でこの映画は衝撃的だ。

 アンソンがもと国鉄マン(JRではないよ)の佐藤(藤井隆)と2人で金の密売をするエピソードも描き方が中途半端で、彼らになぜそういう仕事ができたのか、そうすることでどれだけのメリットと危機を背負うことになったのか、が分かりにくい。

 さらには兄妹の父親が済州島から日本にやって来るまでの、戦争を背景にした部分も冗談みたいに、ひたすら激しい爆撃を繰り返すばかりで、イメージとしては分かるがそれ以上のドラマが描かれていない。

 映画全体がまるで書割めいたものになっているのだ。キョンジャの恋人になる西島秀俊のアウトロー・スターなんてこれまた冗談みたいな人物でペラペラな描写しかない。

 日本という閉塞社会にパッチギをかまして、時代に風穴を開けようとする兄妹の物語として見ていけばいいのだろうが、スケールの大きさと描写の卑小さのギャップが大きく、ギクシャクした居心地の悪い映画になってしまったことは否定しきれない。ラストの映画完成披露試写会場で、暴動が起きるシーンにも爽快さはない。誰と、何のために戦うのかがはっきりしないし、これだけの大事件を起こしたりしたら社会問題になりそうなのに、そういう面でのフォローが描かれてない。

 前作の塩屋瞬のポジションを藤井隆が演じるが、この役をただの脇役に甘んじさせたため、この映画には日本人が在日社会を見るという視点が小さくなってしまった。前作にはそういうワンクッションがあったから見やすい映画になっていた、ということも改めて感じた。

 

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2 コメント

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こんにちは (スポーツだーい好き!)
2007-04-14 11:54:34
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これからもよろしくお願いいたします^^
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2007-04-14 15:11:11
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