6人の視点から描く6つのエピソードを通して2つの家族から新しい家族が生まれてくる。これは結婚にまつわるドラマだ。若い二人が出会い、結婚し、子供が生まれ、というどこにでもあるお話を、食にまつわるエピソードを介して綴っていく。さりげないけど、いつもながら、瀧羽麻子は上手い。時制も前後したり飛んだりするけど、そのバラバラのピースが描かなかった部分も含めてその全体像を見事に提示する。フレンチレストランを舞台にして、そこで働く青年とそこの娘との結婚が描かれる。
これは短編連作として読んでもいい。それぞれのお話は単体としてちゃんと独立して成立している。しかも6人によるそれぞれのエピソードは、食を巡る部分だけでなく、向き合うもうひとりのエピソードにもなる。背後に隠れたものを提示することで、この2つの家族の歴史にも触れることになる。全体の構成が絶妙なのだ。
6つの時間は微妙に前後する。家族の顔合わせから始まり(そこで約束を破ってやってこなかった青年の母親のエピソードがこのお話の中心を担う)、2話は娘(の中学時代)とその母親のエピソード、次は息子(の小学時代)とその母親のエピソードへとリレーする。そこにはもちろんちゃんと父親もいる。2組の3人家族。6つの時代6つのドラマは入子型になっていて、今と過去がセットになる。結婚式、その後の日常を描くエピソードを経て、最後は結婚に至るプレリュード。だから主人公は青年、娘の母、青年の母。青年の父、娘の父、娘さんという順番だ。そこには特別なことは何もない。それどころかお話自体はベタだ。こんなこときっとどこにでもある。だけど、このくらいが読みやすいし、心地よい。実にバランスがいい。そして、それはとても素直に深い部分に沁みいる。