近畿大学東大阪キャンパスD館3階ホールというところに初めて行ってきた。これは学生の創作実習公演である。なんとドストエフスキーの『罪と罰』を取り上げる。今年3月に突劇金魚の『罪と罰』(もちろん作サリngROCKと山田蟲男、サリngROCK演出)を見ている。3時間の傑作だ。同じ題材に近大の学生がどう挑むのか、少し興味を抱いたので見に行くことにした。作、演出は島守辰明。
こちらも突劇金魚作品に負けないレベルの作品に仕上がっていて驚いた。学生の実習作品だからと侮ってはならないと改めて認識させられた。凄いものは凄い。
なんと芝居が始まった瞬間,舞台装置は解体される。可動式のセットを組み合わせて作られていた空間は10数人の黒子によって一瞬でバラバラになり、再び組み換えられていく。その流れるような作業は見事だ。やがてひとつひとつのセットはそれだけでも小さな舞台空間になり,そこをさまざまに組み合わせて芝居は展開する。それによってあらゆる場所を作り上げる。
ラスコーリニコフ(山田岳功)による悪徳金貸し老婆殺害から始まる善と悪の葛藤。正義と犯罪、殺してもいい人間とダメな人間(殺していい人間なんていないだろうけど)、あらゆる対立が彼ら(ラスコーリニコフだけではない)の内部で起きる内面のドラマ、それがこの壮大な物語を通して舞台に展開していく。装置と役者は渾然一体となって骨太の芝居を作り上げる。2時間30分,飽きさせない。
狂気を繊細なタッチで赤裸々に描く突劇金魚作品とは対照的に本作はスペクタクルな視覚効果で見せるにも関わらず、冷静さを貫く。実にクールなタッチの芝居なのだ。安易な結末ではないが、ほっとさせられるラストは演劇の王道を往く。感心した。