このとても小さなお芝居を、とても大切なものとして慈しむように作り上げた武藤さんの取り組みは高く評価されていい。今、小さな芝居がたくさんある。小劇場演劇というジャンル自身がその小ささを標榜しているのだけど、でも、志は大きく持つというのがその身上だったはずだ。だけど、気づけば予算やさまざまな状況から、最初から安易に簡単なものに逃げたような芝居も多々見かけるのも現状ではないか。身の丈に合う芝居は悪くはないけど、妥協はよくない。まず、自分たちのやりたいことをやりたいままにして、観客に提示できたならそれが一番ではないか。
さて、お話はこの小さなお芝居である。絵本をそのまま舞台に乗せた。朗読劇だ。佐野洋子の『100万回生きたねこ』である。イントロダクションの後、前半は、『100万分の1回のねこ』からの4つのエピソード。男女2人がペアを組み舞台に登場する。「とらねこ」(男性)と「白いねこ」(女性)だ。彼らの姿を見守りながら、同じようの男女2名による朗読を聞く。朗読者とネコたちは各エピソードごとに順次動いていく。4組が4つのエピソードを見せてくれる。その単純な構成がとても心地よい。
後半、いよいよ佐野洋子の『100万回生きたねこ』だ。もちろん前半の8人が朗読する。ここでもへんに気合いは入れない。彼らは素直に朗読していく。僕ら観客はそれを見る。ただそれだけだ。なのに、なんだかそれがこんなにも心地よい。テキストを大事にして、それを伝えたいという気持ちが素直に伝わるからだろう。
単純な構成で80分、そこにはネコと人とのささやかなふれあいが綴られていく。それぞれのエピソードには長短はあるけど、いずれもその小ささがこのスタイルと自然に溶け合う。佐野洋子の『100万回生きたねこ』というお話自身の持つテイストがスタイルも含むこの作品全体に反映されている。それこそが武藤さんの作りたかった世界なのだろう。単純なオムニバスのように見せかけて、その実とてもよく考えられて構成されてある。ちゃんとお話を聞かせようとする。同時に視覚的にも楽しめるようにする。それは衣装やネコたちの仕草に反映されている。このささやかだけど贅沢で、ちょっぴりスタイリッシュな舞台は豊かな表現として観客の胸に沁みる。