習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

満月動物園『ツキノウタ』

2012-02-14 23:03:34 | 演劇
 死神を主人公にしたシリーズの第3弾である。戒田竜治さんはこのシリーズを通して、とても軽やかなドラマの語り口を手に入れた。特に今回は、この枠組みを通してなら、普段より自由なお話を作れることを理解し、意識的に、この作品構造を活用する。チラシにもある「ボク、幸せやったんや」という単純な一言に向けて、とてもシンプルなドラマを作り上げる。なんだか拍子抜けするくらいにわかりやすいのだ。もちろん時制はどんどん前後して、話を混迷させる。それはいつものことだが、その中で描かれることが主人公の男が「人生の最後に見た幸福」というわかりやすい一点へと収斂されていくのだ。そこがいつもと違う。

 観覧車が倒れて死んでしまう、というとんでもない事態から始まり、自分の人生を振り返り、それがどこへとつながっていくのかも見て、志半ばの死をちゃんと受け入れていく。ただそれだけのお話である。単純極まりない。もう少しお話に仕掛けがあってもよさそうなものなのに、今回は敢えてそうはしない。あれこれと挟み込んで壮大な話にしてしまうのが、いつもの戒田さんの特徴なのだが、今回はそんな従来のイメージを払拭し、単純極まりないドラマだけで1時間40分の作品を見せる。母親との確執、呑気な恋人との日々、そして、未来の子孫たち。彼が行き来する時間はそれだけだ。突然死ぬことになって当たり前だが心の準備なんか出来ない。そこにやってきた死神が、最後の時間をプロデュースする。このお約束の中で、若すぎる死を受け入れていくまでが描かれる。

 この上演時間は満月動物園としては破格の短さであろう。お約束をちゃんとクリアして、言いたいことをシンプルに見せる。それがこんなにも心地よいなんて、ちょっと意外。主役の鹿太郎を演じた谷屋俊輔さんが軽くて、そこもよかった。どうしても重くなるのが従来の満月動物園のパターンだった。彼のキャラクターはこの作品のカラーを定めた。もちろんそれもまた、今回の戒田さんの狙いなのだろうが、見事だ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『クロエ』『キッズ・オール... | トップ | 太陽族『異郷の涙』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。