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映画・演劇のレビュー

ブルーシャトルプロュース『8月のオリオン』

2013-06-12 20:44:44 | 演劇
 ここまでくるともうただのファンタジーでしかない。しかし、そのファンタジーをいかにリアルなものとして見せるのかが大塚さんの腕の見せ所であり、『ゼロ・ファイター』以上にこれは作者の手腕が問われる作品だ。題材としては絶対に大塚さん向けだと思った。このスピンオフのほうが、本編である『ゼロ・ファイター』よりもすごいものになるではないか、と期待して見たのだが、残念ながら難しかったようだ。

 あまりにドラマが緩すぎる。ここまでうそくさい話では芝居に乗り切れない。これと比較すると『ゼロ・ファイター』はギリギリのラインでなんとかセーフだったが、これは明らかアウト。ゼロ戦の女子パイロット2人が男たちにまざって立派な飛行機乗りになれるか、というスポ根ものなのだが、この荒唐無稽の話に説得力を持たせるだけのリアリティーはない。

 なのに、その話だけではなく、3姉妹の話を同時進行させてしまうことで、話自体も散漫なものになった。看護婦として戦地にいく次女。母親とともに内地に残り戦況を見守る三女。この2人の話はいらない。あまりにありきたりでまるでリアリティーがない。本筋がここまで荒唐無稽なのだからせめて周囲の話にリアルがあればいいのに、それすらないのなら、そんな話で横道にそれないほうがいい。なのに、3つともただのうそくさい話では、この作品のどこをどう見ればよいのか。

 しかも、キャスト全員が女性なのに、かなりの役では彼女たちに男を演じさせる。そこにも無理がある。企画自体がそこから始まったのだから仕方ないのだが、それなら一切男は登場しない話として台本を作るべきだったのではないか。宝塚ではないのだから、これでは無理。『ゼロ・ファイター』では、ほぼ男だけの設定が可能だったのだから、まずそこをなんとかして欲しい。

 作り手の側にためらいがあるから、全体がとてもゆるくなり、こういう芝居になってしまったのだろう。当たり障りのないところで、ドラマを作って、それを小手先の技術でまとめてみても、そこには何も残らない。

 僕が見たのはディレクターズ・カットによる2時間強のヴァージョンだったが、本編は1時間40分らしい。きっとそっちはもう少しテンポのいい芝居になっているのだろうが、それでも本質は変わるまい。



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