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映画・演劇のレビュー

谷町ビックスターズ『classic』

2007-05-01 07:49:06 | 演劇
 昨年上演された自由派DNAの傑作の再演である。こんなに短期間で同じ作品を再演するケースは珍しい。しかも劇団名を変えて、いつものメンバーで演じる。後で梶原さんから事情を聞いて納得。今回は横山拓生さんによるプロデュースとして企画されたらしい。彼が自分の一番好きなDNAの作品をもう一度やりたい、と言ったことがきっかけで、彼のために、彼への友情として、この作品が作られた。

 再見して、そのあまりの単純さに、改めて驚く。前回見た時にはここまで単純な話だとは思わなかった。それは話の構造を知ってるからそう思ったのか、それとも見せ方に迷いが無くなったからか。どちらにしても、前回以上に深く心に沁みてきた。それだけでも成功だ、と思う。

 自分の研究に夢中になりすぎて、妻子の事を顧みなかった科学者が主人公。休日の遊園地で妻と息子、そして親友の3人が事故に巻き込まれて死んでしまう。そのショックから、彼は自分の研究に更に没頭し、クローン人間を作り上げる。

 4人のクローン。妻と息子。親友と、自分。4人は自分たちだけの世界で劇団を作り芝居を続ける。観客を笑わせることを身上にして、芝居作りに邁進する。しかし、気付くとそこには観客がいない。いつの間にか観客が劇場から姿を消している。だが、それでも4人はもう一度満員の客席に向かって演じるため、日々稽古に励む。

 これはなんと胸に痛い芝居だろうか。劇団活動をする全ての人たちに向けてのメッセージでもある。なぜ、芝居をするのか。いつまで続けたらいいのか。もちろんみんな芝居が好きだから、ずっと芝居を続けたい、その気持ちは山々だ。しかし、なかなか状況は自分たちの思う通りにはいかない。それでも、芝居にしがみついていたいか。好きだから、だけではどうにもならないこともある。だけど、そこで妥協して人生を生きたくはない、のも事実だろう。この作品はそういう問題に敢えて深入りはしない。しかし、根底にはそれが確かにある。

 タコ(横山拓生)は彼らの劇団にやって来て、劇団員になりたいという。彼らはもちろん受け入れる。自分が作った共同体の中に自分を埋もれさせて幸福を噛み締める。しかし、いろんな意味でこの幸福は続かない。「ワールド・セルフ・カンパニー」のウノとサノという2人が、彼のクローン技術を盗もうとする。彼はこの研究を自分の名声のためには使わない。クローンとして作り上げた劇団という家族を守ることのみに拘る。個人的な目的のためだけに、このとんでもない研究を使う。それを社会に公開するつもりは毛頭ない。なぜなら、クローンを作ることは人を幸せにはしないということを、身をもって知ったからである。

 大切なのは、生きていた頃の自分の家族である。妻と子、そして友人。その一番大切なものを自分は仕事に熱中して、失ってしまった。その痛みがこの芝居のすべてだ。それだけを拠りどころにしてこの作品は作られる。

 梶原さんはこのシンプルなお話を、何の小細工もなく、見せようとする。構造は単純で、テーマは「愛」だったりするから、少し恥ずかしい。だけれど、今回はテレたりしないで直球勝負だ。それこそがこの作品の目指すものだから。そこを曖昧にしたらこれは成立しない。

 この芝居を最後に横山拓生さんは芝居から引退するらしい。そんな話を聞いて、改めてこの芝居を再演したい、と彼が望んだことが心に沁みてきた。

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