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映画・演劇のレビュー

『殺人の川』

2015-05-15 19:41:06 | 映画
この地味な韓国映画が、なかなかいい。先日見た『海にかかる霧』よりもこれのほうがより『殺人の記憶』のDNAを受け継いでいるのではないか、と思う。とんでもなく暗い映画だけど、韓国の暗い時代がちゃんと描かれてあるのがいい。そういう意味でもこれは『殺人の記憶』を想起させる。

ふたりの少年が好きだった少女。彼女が雨の日に殺される。犯人は誰なのか。事件は迷宮入りするのだが、その出来事は彼らの心に暗い影を残す。それから歳月が流れ、やがて大人になった少年は検事になる。

3つの時代(少年時代、学生時代、そして、今)を描きながら、そこに幼い日の事件の記憶をずっと引きずる2人のドラマが描かれていくのだが、淡々とした描き方にも関わらず見ごたえがある。

2002年の日韓同時開催のワールドカップの熱狂まで、17年に及ぶお話だ。韓国が急激に発展している時代を背後に、凄惨な殺人を通して彼らの、そして、韓国の姿を描く。これはそんな歴史を背景にした大河ドラマなのだ。だが、本来中心となるはずの殺人事件の概要、意味には迫らない。だから、見終えた時、なんだか散漫な印象を与える。軸が定まらない。

子供たちがなんと『ディープ・ブルー・ナイト』を見に行くというエピソードが冒頭のほうで描かれるが、なんだか懐かしくて、時代を思わせた。韓国映画が本格的に最初に日本に上陸したとき、その暗さに驚いた。そんな中でこの映画の閉塞感とそこからの脱出は、あの当時、「韓国」が抱いていた希望だったのではないか。ペ・チャンホ監督、アン・ソンギ主演の韓国映画ニューウェーブだ。あれは1985年作品だったのか、と改めて思い出す。あそこからこの映画は出発する。それだけで、なんだか見てよかった、と思う。




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