ただただ甘いばかりの映画だ。こういうタイプの映画を、つまらないと切り捨てるのは簡単だが、そうはしない。もちろん、有村架純が『ビリギャル』以前にも、こういう蓮っ葉な役(最初だけ、だけど)を演じていたという発見は大きい、なんてことが理由ではない。
このロケーション素晴らしいのだ。そこにあるさみしい風景がなんとなく心に沁みてくる、そんな映画なのだ。僕はこういうのは嫌いではない。ただ、もう少し語られるお話に説得力があって、彼らの背景をちゃんとリアルなものとして描いてくれたなら、いいのだが、そうはいかないのが問題なのだ。まるで心地よくない。それどころか、喧しいばかりだ。石川県のさびれた漁港を舞台にして、そこにあるオンボロ楽団の奮闘記を、よくある人情劇として作りながらも、そんなお話を語ることが目的ではないことは明確だ。もっとちゃんと作ってくれたならこれは秘かに好きな映画になったかもしれない。
お話の骨格は三木孝浩監督の傑作『くちびるに歌を』とよく似ている。東京から一人の少女が田舎にやってきて指揮者として自分より年上のオーケストラの面々を育てる、という話だ。ラストは船で去っていくシーンで終わるのも同じで、たまたまとはいえ、なんという符合。
だが、クライマックスはなんとコンクールを棄権して、バスケットの応援に行く、というなんともありえない展開になる。そこにはまるで説得力がないし、噴飯ものだから、結果的に映画は残念なものになる。そこで、ありえないわぁ、と思わせてはせっかくの映画が台無しだ。いろんな意味で詰めが甘すぎ。台本も悪いし、演出もダメ。(監督は『チェスト!』の雑賀俊郎)これでは、もったいない。
それに、語り部となる釈由美子演じる役所の職員をもっと効果的に使わなくてはダメだ。音大を出てこんな田舎でくすぶる彼女の中にある雑然とした想いがクリアなものとなる瞬間を描かなくては説得力は生まれない。彼女と主人公の少女との対比を通してお話に奥行きが出来たならよかったのだが、そうはならない。