習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ワールド・オブ・ライズ』

2008-12-04 19:58:31 | 映画
 リドリー・スコットの新作である。前作『アメリカン・ギャングスター』に続いてラッセル・クロウを迎え、中東を舞台にしたテロに対するアメリカの諜報戦が描かれる。主人公はレオナルド・ディカプリオ。彼が体を張った芝居を見せる。ラッセルは電話ひとつで彼を動かす上司。だが、この2人を対極に配置することで、CIAのスタンスが見事に図式化される。自分たちは手を汚さないで、世界を支配下に置き、自分たちの正義を世界に撒き散らす。自分だけは安全な所にいて、危険な世界を統治しようとする。

 ぶくぶくと太ったラッセルの醜い姿(彼はこの映画のためにかなりブタブタになってる!)が、アメリカそのものを象徴している。いいのか、こんな映画をアメリカが作って。まぁ、イギリス人のリドリーが客観的に世界を見つめて描いているのだから、誰も文句は言わないか。だいたいアメリカ人はこれを娯楽映画として楽しめるだけの度量がある人種だ。

 現場で奮闘するディカプリオに感情移入して見たなら、問題はあるまい。それにしてもテロ撲滅のために平気で架空のテロ組織を作り、基地を爆破したるするなんて、バカなまねを当たり前の行為として、やってしまうなんて、凄い。映画なのだが、結構リアリティーがある。アメリカならそれくらいのことはやりそうだ。

 誰が嘘をついているのか、嘘と嘘のせめぎあいがこの映画の面白さのはずなのだが、単純な娯楽映画ではないから、見ていて重い。だましあいの面白さはない。これはサスペンスではなく、社会派映画の範疇に入るような作品だろう。

 だが、それにしてはラストの展開はなんだか、安っぽくて、つまらない。一人の女のためにあそこまでするのは、CIA職員としてちょっと甘すぎないか。もっとクールでなくてはこんなきつい仕事を出来ないと思うのだが。まぁ、所詮はハリウッドの娯楽映画だから、仕方ないのか。これではリドリー・スコットの映画としてはあまりよく出来た作品とは言えまい。少し残念だった。

 この映画にお正月の派手な娯楽大作を期待したならしっぺ返しを食らうだろう。なんか、映画会社にだまされた気分になる人が多数続出しそうな映画だ。少なくともスカッとはしまいし、楽しい映画ではないから、そこはお間違えなく!

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