習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

dracom『もれうた』

2007-10-01 23:47:28 | 演劇
 まぁ何をやってもドラカンのすることだから、呆れることはあっても驚いたりはしない。何でもありの最強集団である。掟破りなんて平気だ。だいたい彼らにはそんな掟もどんな掟もないのだから。

 今回は、いつもにも増して冴えわたってる。こういうことをコンテンポラリーとか言わずに、しれっとやってしまうところに筒井さんの計り知れない才能を感じる。結局何をやってもいいけど、それが独りよがりでしかない場合は困ってしまう。思いつきを思いっきりやることで一つのスタイルにまで、高めてしまう。やはりこれには驚くしかない。

 『もれうた』というタイトル通りの世界が展開する。全編脈絡のない鼻歌だけである。口ずさまれる曲の歌詞がきちんと字幕で出たりする。しかも、洋楽は日本語字幕だ。鼻歌ははっきりと音として口ずさまれることなく「もれうた」として、かすかに聞こえてくるだけだ。人に聞かすためでもないし、自分のためですらない。ただ「なんとなく」である。たぶん深い意味はない。潜在的な何かを象徴しているのかもしれないが、よくは分からないし、あまり考える事もない。(たぶん)

 セリフはスピーカーから流れてくる。録音である。役者たちは一切喋らない。口パクすらしない。無表情のままであったり、すこしチグハグに会話がなされている時もある。きちんとシンクロすることはない。人と人とのやり取りでドラマが展開したりはしない。エピソードとしてすら、自立しない。

 アルツハイマーの女性と彼女の看護をする女性が公園のベンチに座る。介護する女が用事で少しここを離れる。その数分間、一人取り残された女の見た妄想が、この芝居全体をなす。ラストで戻ってきた女の「3分ほど離れていた」とセリフがある。ということはその3分の時間が70分ほどで描かれていたのか。たくさんの男女がやってきては去っていく。そんな中、彼女はただそこで座っているだけだ。

 ここに一人の男がやって来て、ブランコに座る。ラストで女が滑り台から持っていた人形を落とす。それと同時にブランコの鎖が切れて男は人形と同じポーズで倒れ、二度と起き上がることはない。このエピソードが何を象徴させたいか、も考える必要はない。この芝居は明確なストーリーラインを敷いて理解することよりも、この世界が醸し出す空気に触れ、その世界に浸るだけでいい。もちろん理屈で理解することも可能なのだろうが、そうすることで洩れてしまうものが勿体ない。

 誰も声を発しないから無言劇ということになるのだろうが、まるで1篇の詩を読んだような印象を残す。とても不思議な作品だ。

 

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